第20話
風がブワッと強く顔に向かって吹いてきた。
髪が巻き上がり、太陽光に透けて細く見える髪が柳のようにうごめいた。
視界に刺さってくる前髪を右手でササッと払って最低限身だしなみを整える。
空は昼よりも薄くなって見え、太陽光が透けて見える。
そうして相変わらず静かな建物に近づいた。ドアの前には市立図書館と書かれている。
この前ハクといっしょに来たときとはまた違って質素な感じがする。
壁はザラザラとしていて家の白い壁とちょっと似てる。
子どものときに壁を爪で引っ掻いて絵を書いたらお父さんに怒られたことがある。でもこの壁は硬いから削れなさそうだ。
私は周りを見渡して、入口前の返却ポストと書かれた黒いボックスのような部分のポスト口みたいな細長い入口を見た。この中に本をいれると返却できるようになってるのか。厚めの図鑑2冊くらいなら余裕で入りそうだ。
ポスト口は真っ黒で、光も反射しない漆黒に塗りつぶされてるみたいでこの先がどうなってるのかちょっと気になった。
手をサワっと動かすと、手に持った本のザラザラとしたテクスチャが本と触れた指の部分にすり寄ってくる。
前にハクと図書館に来たとき、ずいぶん私の家から近いことがわかったから、このままこの返却ボックスに本を入れて帰ってもいいのだが。
なにか思ったわけじゃないけれど、自然と視線の先には図書館の入口があった。
風がふわりと舞って制服のスカートが揺れる。ソックスの上の肌の出ている部分がスカートとこすれた。
ちょっと迷って体を揺らすと自動ドアが開いてしまった。その様子を見て前も見た警備員が嫌に湾曲して反射するドアの向こうから視線を向けてきた。
狙っていなかったドアの動きに思わず立ち止まってしまう。警備員と視線が結ばれるように目があった。
それを見て気まずくなったわけではない。私は前と同じ冷気を満たした空間に触れてそのまま進んでいった。見えないゲートをくぐったみたいな外とは違う空気に、数秒前とは違う世界に入った気配がする。程よい冷気が曇りの今日には少し肌寒かった。
私の中で何かがひび割れて何かが飛び出てくるような、大したことはないけれどなにかハードルを超えた気分になる。
昼にハクが「出会いは自分で掴み取るものなんだよ」と言っていたせいかもしれない。ちょっといつもはしない行動を取ってしまった。
でも、この先に何かがある気がして、少しだけ胸がくすぐったくなった。
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