第16話 祭りの明かり
「入院長かったね~、お疲れ様」
進吾はやっと退院できることになり、私たちは病院の外に出たところだ。
「もうびょういんはやだ」
「そう言われてもなー…少しは症状楽になったか?」
「うん。ありがと」
「進吾も頑張ったし、この後何か食べに行くか」
「やったー」
そうして近くにあったレストランに入ることにした。席に座り、注文を終え、料理が運ばれてくるのを待っていた。その間進吾は小学生限定でもらえるおもちゃで遊んでいた。それを見てると、子供らしさがあって安心する。私は1週間前に調べたあることを進吾に言うことにした。
「進吾ー、花火見たいって言ってたじゃん?また近いうちに花火大会やるらしいんだけど行く?」
「いくー」
進吾は目をキラキラさせながら答えた。
「そのためにしゅじゅつうけたんだもーん」
「がんばったもんなー」
ゆっくりと食事を摂り、店を出た。そしてせっかくのお祭りに行くのだからと、
「ぼくこれにするー」
「え……それにするの?」
「うん」
手に取ったのは、みんなもよく見たことがあるであろう青色の
「進吾がそれで良いなら……」
私には着ていく勇気は全くないのだが、進吾が思いの外気に入っていたため、買うことにした。
そして花火大会当日、意気揚々と進吾は青の
「おっ、祭り男だ。かっこいいー」
「わっしょーい」
どこか聞き覚えのあるセリフを発したが、気にしないことにした。きっと青の
「よーし、車に乗って出発だー」
「わっしょーい」
かけ声と共にアクセルを踏み、車が動き出した。
「うわーおまつりだー!やたいだー!」
到着したお祭りの会場には、屋台がずらっと左右に並んでいて、暗い夜の中、屋台の明かりで光の道が出来ている。セミの鳴き声、人々の会話で声も通りづらくなっている。
「離れたらダメよ?」
「はーい」
そう言って進吾と手を繋いだ。一方隣にいた旦那は屋台を覗き込み、食欲と闘っていた。
「やきそばうまそー。あっ、ビールと焼き鳥もあんじゃん」
「今日は運転するんだからビールは飲まないの」
「はーい……」
進める道をかき分けながら、前へ前へ進んでいく。進めば進むほど、お肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
「なんか食べたいものがある?」
「じゃああれ食べたい!」
進吾の指し示す先はたこ焼きの店だった。お肉だと思っていたが、相変わらずの少食だ。興味はないようだった。
「じゃあ俺も」
「はいはい、買ってくるから」
たこ焼きを買い、2人に渡す。ついでに私の分も買ってきたので一緒に食べることにした。食べ終えると次はりんご飴を、その次はわたあめ、そして、アイスクリームを買い、ペロリと食べ尽くした。進吾の純粋に楽しんでいる笑顔に私たちも癒されていた。前にいた旦那は腕時計で時刻を確認すると、こちらを振り返って言った。
「そろそろ花火の時間が近いな。綺麗に見える良い場所取りに行こうか」
「いこー」
進吾はスキップをしながら打ち上げ予定地に向かい、見る場所を探し始めた。
「川の方で打ち上げるらしいから、河川敷なら座ってみれそうね」
「ここら辺にするか」
傾斜になっている草地に腰を下ろし、川の向こうに見えるビルの明かりを眺めていた。打ち上げ開始5分前になると人も続々と集まり始め、座るスペースがなくなったように見える。
「早く座っといてよかったね」
「だな。そろそろ始まるぞ」
「たのしみー」
光る線が空を昇り、大きく弾けた。花火大会が遂に始まったのである。
「うわぁぁぁ!きれー!」
暗い空を彩る綺麗な星の花が大きく咲いていた。夢にまで見た花火が辺り一帯を明るく照らした。その明かりに照らされた進吾の表情は目と口を大きく開け、今までで1番というほど喜んでいた。打ち上げが始まって少し経った頃、私はカメラを取り出した。
「はい、進吾。こっち向いてー」
「いぇーい」
本来鳴るはずのカシャというシャッター音も花火の音で打ち消されてしまっている。
「せっかくなら家族3人で撮ろうか」
そう旦那が言い、シャッターを切る。私たちの笑顔の後ろには、色とりどりの花火が満開に咲いている。
「今回は誰も変じゃないよ。よかったね」
「えー、パパのかおふつうー」
「じゃあ、変顔するか?」
進吾は大きくうなずき、旦那は仕方なく全力の変顔をした。これには進吾もご満悦の様子。
「うちの家はどんなに上手く撮れても、必ず撮り直さなきゃいけないのね……」
数十分も続いた、夏の祭りを象徴する花火、それは直に終わりを迎えてしまう。クライマックスに大量の花火がキラキラと空一面を輝かせ、最終的には儚く消えていってしまった。
「おわっちゃった……」
「綺麗だったなー。久々にこんな間近で花火見たよ……」
「そうね……」
花火が終わってしまうとしんみりとした気持ちになってしまう。これは花火大会あるあるなのだろうが、私たちの場合、家族みんなで見る花火はこれが最後だ。考えたくなくても考えてしまう。
「なんかはなびってかんじだね」
「え?どういうこと?」
進吾はニコっと笑った。
「なんかさびしいかんじがするから」
その回答に旦那と2人で目を合わせ、笑う。
「そうだよな、花火って感じだよ」
美しくも儚い時間は一瞬にして過ぎてしまった。
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