催氷竜

木目ソウ

第1話

 命をさずかった時、心のなかに冷たいものが侵食してきた。

 やがて、冷気をともない、孵化する。


 私たちは、白い、森のなかを歩いていた。


 私の吐く息は、周囲の木々の葉を凍てつかせる。

 雪がふっていた。

 雪の道を、私は花白かしろに手をひかれ、歩いていた。


「寒い」花白ははぁーと手のひらに息を吐きあたためた。

(寒いとは、なんだ?)


 やがて、白を基調とした建物にたどりついた。

 中央に大きな塔があり、頂上にはきれいな音がなる鐘があった。

「ここなら親のいない子供のめんどうをみてくれるって」花白がいった。


 幾年かがすぎた。


 ある日のおやつの時間に、私は花白かしろに「心のなかに竜がすんでいる」と告発した。花白は孤児院に蔵書してある本をよく読んでいて、物知りだった。

「姉さん……竜がまだ生きているはずがない。

 竜はね、何百年も前の英竜戦役の時、人類に絶滅させられたの。

 その時人は、竜殺しという危ない武器をつかって、竜を殺したの」

「いるったら、いるんだよ」

 花白はあきれたように鼻を鳴らすだけで、求人誌に目をもどした。

 そろそろ孤児院をでる歳になるから、必死に職探しをしているみたい。

 やがて一段落したのか、雑誌をとじ、立ち上がった。

「姉さんでも働ける場所があればいいね」花白は私の頭をなでた。私たちは同い歳のはずだけど、私は花白の身長の半分ほどしかない。

「またお姉ちゃんを子ども扱いしてー」

「はいはい、そんなにはしゃぐとお菓子が口からでちゃうでしょう」


 竜は夢をみる時に、たまに目のまえにあらわれる。

 どこかのきれいな雪原の空を、優雅にとんでいるのだ。



 この町はずーっと雪がふりつづいている。

 あなたたちがここにくるまでは、そんなことなかったんだけどね~とシスターたちは苦笑しながらいっていた。

 作物が育たず、交通の利便性も悪く、町の人々は、あきれたようにでていった。


 やがて、資金繰りが難しくなり、孤児院はとりこわされた。


 捨てられていたローブに身をつつみ、夜の町をさまよう。

 廃棄された食材を拾い集め、なんとか飢えをしのぐ。

 町はずれの森の中に、獣に荒らされた木造りの小屋をみつけた。

 水道はとおっていないようだが、歩いてすこしの場所に川があった。

 物置には工具類があったので、花白は、次の日から小屋の補修作業にとりかかった。「姉さんはどうする? 手伝ってもいいけど、危なくないかな」

(トンカチは、重すぎる……)私は森の動物たちとたわむれていた。


「くれるの?」

 散歩していると、森にすむ動物たちが、木の実やキノコをわけてくれる。

 さらには、肉が欲しいとおもえば、リスやウサギが、高木の上から身投げして、首を折り、己の肉を私によこした。

「姉さん、これ……」私が彼らの躯をわたすと、花白は怪訝な顔をしながらも、刃をとおし、食べられるようにしてくれた。

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