第4話 31
正直なところ、カイルとレントンには騎士の――ううん、魔道の才能はなかった。
それまであたしは、混血種――アジュアお婆様の言う再生人類の血統の弊害というものをそれほど信じていなかったんだけどさ、ふたりを鍛えてみてはっきりと理解させられたよ。
ローダイン王国民の祖は、アグルス帝国から逃れてきた純血種達なのだという。
彼らはアジュアお婆様の助けを受けてこの地を切り拓き――やがて国を興した。
その後、彼らに続いてアグルス帝国から、多くの流民がやって来たのだという。
アグルス帝国での彼らの扱いを知っていた初代国王アベル陛下は、渋るアジュアお婆様を説き伏せて、彼らを国民として受け入れた。
その時に流れ込んで来た流民――現在のローダイン王国の平民の祖となったのが、再生人類と呼ばれる種属なんだって。
<
この世界に人々が流れ着いた時、多くの命が失われたのだという。
人々の死を哀れに思った<
アジュアお婆様が言うには、この神話は側面としては事実だけれど、真実ではないんだって。
実際に人々を復活させたのは、アジュアお婆様を含む生き延びた魔道科学者で。
アジュアお婆様はその方法についても、いろいろと――いでんじょうほう? を使って肉体の再構築がどうとか――言っていたけど、複雑な魔道技術の話でよく覚えてない。
とにかく亡くなった人々は復活して、この世界での生活を始めたそうなんだけど、すぐに弊害が明らかになったんだって。
――たとえば寿命の問題。
生き延びた人々は魔道技術による不老処置や延命処置が可能だったのに対して、復活した人々はその処置が効かず、短い寿命――長くて百年しか生きられなくなったんだって。
――たとえば魔道器官の弱体化。
これに気づいたのは、三世代ほど代を重ねた頃だったそう。
当時はこの弊害が知られていなかったから、多くの人々が交わって子を成していたそうなのだけど……復活した人々の血が混じった子は総じて魔道器官が弱く、弱い肉体しか持たなかったんだって。
これについてもアジュアお婆様がなんか
この世界はグローバル・スフィアと呼ばれる大きな霊脈の流れから隔絶されていて、だから本来は復活した人々に付与されるはずだった、<
そんな弊害が明らかになった結果、人々は本来の種属とは別に、三つに大別される事になったんだ。
復活処置のされていない人々の血統――いわゆる純血種。
彼らによって復活させられた人々は再生人類と呼ばれるようになり、彼らと交わって生まれた人々は混血種と呼ばれるようになったみたい。
アジュアお婆様が血統にこだわるのは、身分によるものじゃなく、こういう弊害があるのを知っていたからなんたって、カイルとレントンを見て思い知らされたよ。
ううん。それでもカイルはまだマシだった。
あたしの推測が正しければ、彼はイリーナ様の子供のはず……
アジュアお婆様に匹敵する魔道器官を持っていたという彼女の子供というには、カイルの魔道器官は一般的だったけれど、それはアルという例もある。
親の才能がそのまま受け継がれるわけではないのを、あたしは良く知ってる。
ただ、そのアルと比べても、彼の魔道は王族の血を引いているとは思えないくらい弱々しいものだったんだけどね。
レントンに至っては――本人にやる気がある分、いっそ可哀想なくらいだった。
あたしがふたりに課した鍛錬は、あたしやアルがアジュアお婆様に教わったように、まず自身の魔動を自覚し、魔道を自身の制御下に置くことだったんだけど、ふたりはこの段階で躓いた。
カイルはそれでも魔動の感触を掴むところまではなんとかなったんだけど、レントンはそれさえも難しいみたいで。
だからあたしはようやく、これが貴族と平民の差なんだって理解したんだよね。
現在のローダイン王国の貴族も、ほとんどが混血種の家系になっている。
それでも時々、
まして混血種同士で子を成している平民だと、簡単な魔法すら使えないというのも、レントンを見ていて納得するしかなかった。
彼らはそもそも魔動を感知する能力を失っているんだ。
貴族の子でも、時折魔法を使えない子が生まれるのも、同じ理由だと思う。
一月ほど魔道に関する鍛錬を続けて成果が出なかったふたりの為に、あたしは方針転換する事にした。
強い肉体を作る為の基礎鍛錬――走り込みなんかの体力づくりはそのままに、魔道の鍛錬を後回しにして、剣術や格闘術を仕込む事にしたんだ。
魔道を用いない、純粋な技を磨こうと思ったんだよね。
それと並行して、アイリスやサントス執事長の相談して、魔道士を教師として雇ってもらう事にした。
あたしはいわゆる純血種で、しかもアジュアお婆様の鍛錬という、魔道の教わり方が一般人とは異なったものだったからね。
ふたりの魔道育成がうまくいかないのは、あたしの教え方が合ってないんじゃないかと考えたんだよね。
平民の冒険者にも魔道士がいる事を考えると、平民――混血種だからといって魔法がまったく使えない事はないと思ったんだ。
彼らには彼らなりの教え方があるのかもしれない。
攻性魔法が使えるかは別として、騎士を目指す以上は身体強化は必須。
より高みを目指すなら、最低でも構造強化はできるようになってほしい。
だからあたしは、アイリスにコートワイル家の伝手を使ってもらって、あたしとは別に魔道専門の教師を雇ってもらう事にしたんだ。
サントス執事長はあたしの時がそうだったように、冒険者ギルドに依頼を出したり、王都にいるリグルドに相談したりしてくれたみたい。
その間もあたしは、ふたりの肉体を徹底的に鍛え上げた。
ふたりの為に隣の領までちょっと遠出して、眼の色が変わる前の――いわゆる成り立ての魔獣を捕獲してきて、討伐訓練をさせたりもしたよ。
ふたりの覚悟と志は本当に堅くて、あたしの無茶振りにも必死に食らいついてきた。
鍛錬を始めて三ヶ月経った現在、ふたりは遺跡の攻性生体兵器なら――群れじゃなければ、討伐できるほどになっていた。
冒険者としては中級目前の下級。
騎士としてなら見習い程度には強くなったと思う。
……そう。
これだけ鍛えても……魔道が弱いふたりは、騎士見習い程度なんだ……
生まれという、本人にはどうしようもないものが、乗り越えがたい障害となってふたりの前に立ち塞がっているという現実に、悔しくて何度も泣きそうになった。
……そうだね。
たぶん、あたしは必死に努力するふたりに、アルを重ねてるんだ。
両親の才能をまるで受け継がなかったと哂われ続けても、それでもって必死に――それこそ文字通りに死ぬような、苦しい鍛錬を続けているあいつを……
なまじカイルはあいつとそっくりな顔をしているから、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
……報われて欲しいと思う。
努力は決して無駄にならないんだって……そう、信じたいんだ。
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