六限目 呼び出し

 教室につくとすでにクロがおりこちらに近づいてくる。


「二人ともおはよー!」


 朝が不得意そうだと勝手に思っていたがそんなことはないらしい。


 元気が有り余っている様子でいつもどうり尻尾がゆらゆら揺れている、俺の視線もそれに合わせてゆらゆら揺れる。


 それからしばらくして授業が始まるギリギリでリネアがやってきた。


 リネアは朝が苦手なタイプらしく、髪は少し寝癖が付いていてあくびをしていた。おはようと言ってみたが言葉になっていない返事が返ってきた。


 それからは昨日と同じで、チャイムが鳴ると同時にリノが入ってきて始業の挨拶をする。


 今日は何をするんだろう? そう思っていると......


「皆さんにお知らせがあります。フラブくんが昨日の夜から家に帰っていないそうです、もし何か知っている生徒がいたら先生に報告をお願いします」


 フラブが行方不明になったのか......別にどうでもいいが。


「それと怜人君はこの後先生についてきなさい」


「え、」


「では次の授業の準備を忘れないように解散」




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 見覚えのある道をリノと歩く。


「来てもらった理由なのですが......実は怜人君が今回の事件の容疑者なのではないかという疑惑が出てきていて、それについて本人の意見を聞きたいということなんですよ」


 なるほど昨日フラブとあれだけもめた俺が関わっている可能性は高い。俺が教師側の立場でもめちゃくちゃ怪しく見えるだろう。


 呼び出された理由に納得していると着きました、と先生が言った。


ついた部屋の中にはレノンが腕を組みながら座っていた、他には誰もいないようだ。


「おおきたか、昨日ぶりじゃのう。早速本題を言うが君は今回の事件に関わっているのかね」


 本題にすっぱりとためらわずに切り込んできた。


「いえ、全くかかわっていないです。昨日は疲れていて寮の部屋についた後すぐに寝てしまったので。」


 信じてもらえるか分からないが昨日の行動を嘘偽りもなく説明する、するとレノンの右目が光始めた。


「なるほど嘘はついていないようじゃのう」


 右目の光が収まりしばらく考えるような仕草をし、頷くとレノンはそう言った。


 なぜ嘘ではないと分かったのか? あまりにも早すぎる話の進みに付いていけずにいるとリノが説明をしてくれた。


「レノン校長は嘘を見抜く魔眼を持っているんです。あ、魔眼についてはおいおい授業で説明しますね」

 

 なるほど俺の特殊スキルのようなものか。


 怜人君の疑惑が晴れた様で良かった。先生がニコリと笑いながら言うが本当にそう思う、異世界生活が始まって二日目から行方不明事件の犯人なんてたまったもんじゃない。


「これで解決と言いたいんじゃが、君にしてもらいたいことがあるんじゃよ」


 開放かと思ったが違うらしい。


「上の奴らがうるさくてのう、解決するために犯人捜しを手伝ってほしいんじゃ。もちろん自分の都合を優先してかまわないし、何か気づいたことがあったら報告する程度で大丈夫なんじゃが、どうかのう?」


 少し考える。デメリットは少ないだろう、レノンも自分のことを優先していいと言っているし、逆にメリットは犯人捜しを手伝うことで周りから限りなく白だと認識してもらえるところだろう。


 しかも俺には解析スキルがある。それを応用すれば犯人をより早く見つけることができそうだ。


 これらを踏まえて俺はYESと答えることにした。


「いいですよ、クラスメイトに被害者が出た以上俺や友人にも何か起こる可能性もありますし、微力ですが協力します」


 その後事件の特徴について話し合い、次の授業が迫っているとのことで一度解散になる。


「私は準備がありますのでお先に失礼します」


 リノが速足で歩いていく。俺も失礼しますと言おうとしたところで呼び止められた。


「少し待ってくれ、渡し忘れたものがあるんじゃ。」


 レノンが懐から袋を取り出す、袋はじゃらじゃらと音を立てていて、中にはコインのような物が入っていた。

「お主、この世界の金を持っていないじゃろう? なに年寄りのお節介のような物じゃよ」


 袋を受け取りお礼を言って今度こそ俺は部屋を出た。




______________________________________




 教室に戻るとクロが待っていてくれた。どうやら移動になるようで場所を伝えるため残っていてくれたらしい。


「先生に呼ばれてたけど、どんな話をしたの?」


 一緒に移動しているクロが聞いてくる。


「なんやかんやあって行方不明事件の犯人を捜すことになってね、事件の詳細とかを聞いてたんだよ」


 それを聞いたクロの瞳が少し濁る、それになんだか辺りが寒くなり暗い空気が立ち込めはじめた気がする


「フラブの手助けをするってこと? 暴言とか魔法を打たれたりしたのに?」


 いつの間にか俺たちは立ち止まっていた。肌がピリピリする。


「いや、手助けっていうか......俺とかクロに何かあってからじゃ遅いかなって思ったんだよ」


「......ふーんならいいや」


 張り詰めた雰囲気が霧散する。


「え、なにがいいの?」


「なんでもなーい、早くいかないと遅れちゃうよ」


 急に速足で歩き始めるクロ、俺は置いて行かれないように急ぐ。


「心配してくれてありがと!」


 クロがこちらを見ずに感謝を伝えてくる。頭の上に生えたふわふわの耳が嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。


 結局何だったんだ?

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