100日連続小説 SS500

第49話「絵に描いた餅」（2024/8/3）

　勇者は魔王に負けた。

　４人のパーティーで挑んだが、魔王の強大な力に圧倒され、ひとり、またひとりと命を落としていった。

　魔法使いが最後の力を振り絞って脱出魔法を発動し、勇者を逃がした。

　その魔法使いは、勇者の姉だった。

　勇者は姉と仲間を失った。

　魔王を憎んだ。

　安い武器ひとつで送り出し、世界の命運という重荷を押し付けた王を呪った。

　のうのうと安全な場所で暮らしているこの世界の奴らを憐れんだ。

　勇者は失意を抱えたまま世界を巡り、姉を、それどころか魔王すら超える大魔法使いに出会った。

　その大魔法使いは、訪れた者の願いを叶える力があるという。

　想いが強ければ強いほど、より顕著に世界に影響を与えるのだという。

　勇者は迷うことなく、大魔法使いを頼った。

　勇者の願いは叶った。

　魔王は滅び、王は重い病気と死ねない呪いを同時に宿す身体になり、この世界で暮らす者は魔物に変異した。

　勇者は思った。

　王が渡した剣より、絵に描かれてすらいない想いの方が、遥かに役に立つじゃないか――。

　一人ぼっちの勇者は笑顔で冷たい涙を流した。