第48話「恩返し」(2024/8/2)

 ムカムカしたから殴る。

 そこにいたから蹴る。

 視界に入ったから暴言を吐く。


 これが俺の父親だった。

 産んでやったんだから、子供は親の所有物。何をしても親の勝手。親のものなのだから当然。

 親の言うことをなんでも聞くのが、子の恩返し。

 そう言われて育てられた。


 どこの父親も、こういうものだと思っていた。


 俺が18歳になった日の夜。

 俺の家は業火に飲まれた。最近砲火によるボヤが増えていて、今回も誰かが放火し、しかし運悪くボヤで済まずに大火事になってしまった。それが大人の見立てだった。

 父親は炭になった。


「しっかり働け。俺が何もしなくていいようにな」


 父は俺にそう言った。

 だから俺は、恩返しした。

 食事も、排泄も、生きることも、何もしなくていいように、この世という地獄から解き放ってあげたのだから。

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