第38話「ラジオ」(2024/7/23)

 寂しい夜にラジオを流しながら、車を走らせていた。

 山の中の一本道に散らばる枝葉を踏む音と、パーソナリティーの声が、静寂の中を走り抜ける。


 山頂までドライブに行く途中で車が故障したから迎えに来てほしい、と友人から頼まれ、日付が変わったばかりだというのに迎えに出向いている。

 あと数分連絡が遅ければ、晩酌が始まって車を出せなくなるところだった。

 今度酒を奢らせよう。


 ラジオ番組の内容は、リスナーと電話で繋ぎ、相談に乗るというもの。

 今夜は、彼氏のDVに悩む女性からの相談だった。

 暴力、モラハラがひどく、肉体的・精神的にかなり追い詰められている。それでも、彼が怖くて別れを切り出せない。

 その身に受けた恐怖を、涙ながらに語る。と――


「いやあああ! やめてえええ!」


 突然、絶叫が響いた。

 危うくガードレールにぶつかるところだった。


「タカヒロ! 殺さないでえええ!」


 その後も絶叫がしばらく続き、唐突にピタリと止んだ。

 そこで、気づいた。


 今自分が走っているのは、電波の届きようがないトンネルの中であること。


 そして。

 タカヒロ――それが、今まさに自分が迎えに行こうとしている友人の名であることに。

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