第31話「スマホのぞき」（2024/7/16）

　帰宅ラッシュで電車の中は混雑していたが、幸運にも座席に腰かけることができた私は、鞄を膝に置いてほうっと息を吐いた。左のサラリーマンは腕を組んで寝ている。右の私服姿の若い男性は、イヤフォンを装着し、スマホでアニメを見ている。私の好きなアニメだ。

　失礼だと思いながらも、横目で画面を覗いて、映像だけでもとおこぼれを頂戴した。小柄な女の子が、強大な敵に爆裂魔法を放とうとしている。一番盛り上がるシーンだ。アナウンスが、次の駅に間もなく到着することを報せる。

　と、そこで男性はスマホをスリープモードにして立ち上がってしまった。おあずけを喰らった気分だが、仕方ない。

　駅に停車した。男性が手のひらを上にして、突き出してきた。

「視聴料、五百円になります」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう！

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録（無料）

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る