第30話「大人の通信簿」(2024/7/15)

 3月が終わって、新しい年度になった。

 母、父、長男の僕、弟が、テーブルを囲んで正座している。

「それでは、始めます」

 母が口火を切った。男3人が頷く。

「まず、我が家の家計状況。昨年度は年間30万の貯金に成功しています。とはいえ、将来的にかかる大学の学費などを考えると、決して潤沢とはいえません」

「収入は?」

「変化なし」

 弟の質問に即答する母。父は気まずそうにしている。

「節約して、支出を減らした結果です。安い食材と特売とクーポンを駆使しました。節約しても、食事が貧しくはなっていなかったはずです」

「お昼のお弁当が、夜の残り物だったことが多かったです」

「晩御飯がカレーだと、3日続くのが辛いです」

「たまには飲み会に行きたいです」

 男3人が口々に文句を言ったが、母にひと睨みされて全員黙った。毎月の固定費は限界まで節約しているので、あとはいかに変動費を抑えるかが重要なのだと力説され、僕らはぐうの音も出なかった。その後も母の独壇場で演説が終わった。

「以上。評価は?」

 腕組みをして威圧する母を否定できる者はいなかった。

 ようやく笑みをこぼした母は、宣言した。

「では、今年度のお小遣いも全員据え置きとします」

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