第28話「死神さん」(2024/7/13)

 ようやく死ぬことができた私の前に、死神がやって来た。黒いローブを着て、大きな鎌を持って……という浅いイメージとは違って、タキシードのようなものを着こなしていて、まるで貴族の執事のような出で立ちをしていた。エレガントな初老の男性にしか見えないその死神は、長い病苦の果てに死人となった私を迎えに来てくれたのだという。

 ベッドに横たわる私。私に縋りついて泣き崩れるパパとママ。その光景を、私は二階の窓の外から見ている。不思議と、すんなり受け入れられた。

「心残りが無いよう、お気の済むまでご両親と過ごしてください」

 落ち着くまで待つから――と、優しい言葉をかけてくれた。

「もう、いいの。連れて行って」

「よろしいのですか。まだ、お時間はありますよ」

「これ以上、ここにいても仕方がないから」

 パパたちにとっては、そこで寝ている私の死体が私なのだ。それなら、いらない私は消えよう。ずっと迷惑ばかりかけてごめんね。お金も時間もたくさん使わせちゃった。でも、もう必要ないから……二人の時間を大切にしてね。

「さよなら……」

 私の死体の口から、一筋の血が流れ出た。

 死神さんは、パパの代わりに私を抱きしめてくれた。

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