第27話「飽きた」(2024/7/12)

 まことしやかに囁かれる噂の中に、異世界へ行く方法というものがいくつかある。その中のひとつが「飽きた」。

 5cm四方の正方形の白い紙に、二つの三角を重ねた六芒星をできるだけ大きく描き、その中心のスペースに赤文字で「飽きた」と書く。その紙を枕の下に置いて一晩寝ると、なんと異世界へ行けるのだという。

 起きて、枕の下の紙が無くなっていたら成功だ。

 僕はその都市伝説を実験してみた。寝ている姿をカメラで回した。成功しなくても、というか成功すると思ってないが、ネタにはなる。


 一晩寝て、起きた。自分を映すカメラが視界に入り、「ああ、そういえば実験してたんだっけ」と思い出した(つまりは、始めた実験の興奮など夢の中に置いてきてしまっていた)。

 枕の下を手探り。――紙が無い。

 枕を持ち上げたり、布団を捲ったり、ベッドの周りを探したりしたが、どこにもない。

「え……」

 鼓動が早くなる。寝汗とは違う汗が出る。まさか……。

 階段を降りて、リビングに向かう。母親が朝食の用意をしていた。

「おはよう。朝ご飯もう少し待ってね」

 いつもの日常だった。なんだ、やっぱりはったりか。


 気を抜いた僕は気づかなかった。母が手刀で大根を切っていることに。

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