第21話「遠吠え」(2024/7/6)

 夕方の5時に時報が流れると、カールが遠吠えを始める。

 カールは生後3歳のマルチーズ犬だ。

「キャン! キャオーン!」

 なんとも威厳のない甲高い声色が響く。狩猟犬でもなかろうに、遠吠えなんてするものなんだな。


「キャン! キャン! キャオー!」

「キャン! キャン! オオー!」

「カオー」


 5歳、7歳、10歳……と年齢を重ねるごとに、その遠吠えは短くなり、掠れるようになり、声を出せなくなり、13歳になると時報に反応すらしなくなった。

 家族が帰宅すれば玄関まで駆け付け、短い後ろ脚で跳ねて息遣いを荒くして出迎えてくれたのに、歩くのがやっとになってしまっていた。


 ちょうど1年前、カールは虹の橋を渡った。

 亡くなる前日。寝たきりだった身体を起こそうとしたので、手伝って座らせてやると、顔を上げて、白濁した目で家族を見やった。何かを訴えるように。

 そうやって、最後の最後まで迫りくる死に抗ってくれた。


 遺骨の前で、カールがこっちを向いている。3歳の頃の、やんちゃ盛りのカール。


 17時になり、時報が流れた。それを追いかけるように、どこかの犬が遠吠えを始めた。

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