第17話「コンタクトデビュー」(2024/7/2)

「大学に通いだす前に、コンタクトに替えたら?」

 姉にそう言われて、コンタクト専門店に出かけた。眼科でもらった処方箋を出し、1カ月分の使い捨てコンタクトを購入した。その帰り、懇意にしている洋服店に寄り、仲のいい女性店員との会話に花を咲かせる。私がコンタクトに替えることを伝えると、

「いいじゃないですか! 眼鏡もいいけど、コンタクトに替えると印象が変わって、モテちゃうかもですよっ」

となぜか彼女がはしゃいでいる。

 曖昧に笑って誤魔化したけど、その気持ちがない……と言えば嘘になる。なんだか気恥ずかしくて、洋服を選ぶフリをする。

「お眼鏡に適う品はございますか」

 敵わない。


 無事に大学デビューを果たし、2カ月ほどで環境の変化にも慣れ、そして、なんと彼氏ができた。初めての彼氏で、まだ手も繋げていない。

 報告という名の自慢がてら、洋服店の彼女に会いに行き、私にも春が来たことを告げる。

「やったね! やっぱり、コンタクト効果かな? だって、もとが可愛いんだもの!」

 私は顔が火照るのを誤魔化すように、よく見えてもいない洋服を手に取り、眺める。それを見た彼女はおどけた。

「おコンタクトに適う品はございますか」

 敵わない。

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