第16話「まほうつかい」(2024/7/1)

 吾輩はミケである。猫だ。

 とある人間の女が、吾輩を敬って飯を献上するようになった。その女が吾輩を呼ぶのに使う名だ。本来、猫に名など不要なのだが、その敬愛の心に免じてその名を受け入れることにした。


 ある日、その女の住まいの庭で日向ぼっこと洒落こんでいると、その女がやって来た。何やら珍妙なモノを手に持っている。吾輩への献上品にしては、無機物すぎる。

 吾輩の目の前にやって来た女は、手に持ったモノに細い指を数度あてた後、吾輩に見せてきた。

 なんと、そこには姿を消した同胞がいたのだ!

 甘えた声を出しながらすり寄るその姿は、吾輩の記憶の中のそいつとも一致している。吾輩はピンときた。


 この女……。


 猫を操り使役するまほうつかいだったのか!

 吾輩は戦慄した。この女に逆らおうものなら、吾輩も同胞と同様にこの珍妙な世界に閉じ込められてしまう。

 その女が手を出してきた。吾輩は動けなかった。

 その女の手が吾輩の頭に乗り、毛の感触を確かめるようにゆっくりなぞる。その次に、顎を指で擦る。


 ゴロゴロ……。


 はっ! 気づけば、吾輩は喉を鳴らしていた。

 やはり、この女はまほうつかいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る