第15話「解剖救出マッチポンプ」(2024/6/30)

 私の小学校には飼育小屋が2カ所あり、一方に兎、もう一方に鶏が詰め込まれていた。安全と安定した食料供給と引き換えに、2m四方の自由しか与えられない動物たち。

 休み時間、私は芝生で跳ねていた雨蛙を捕まえて、小屋に放ち、鶏に食べさせた。


 なぜ学校で動物を飼育するのか?

 命の大切さを学ぶため――と大人は言う。

 子供ながらに、馬鹿みたいだと思った。命の大切さを学ばせたいなら、先生が死ねばいい。いくら聞こえのいい口上を並べたところで、動物と子供の時間を犠牲にした実験でしかない。


 中学に入り、飼育小屋が無くなった代わりに、理科の授業で鶏の解剖実験が行われた。私たちの学びのための生贄だ。

 毛を毟られ、丸裸の肉の塊だった鶏が、先生の手で解体されていく。

 肝臓、心臓、肺、胃、砂肝……。動物の内部構造を知る以外の目的を持たず、次々と肉にされていく工程のどこに、命への尊重があるのか。


 雨蛙を喰らった鶏がその日のうちに解剖実験されていたなら、あの雨蛙の命は助かったのだろうか。

 助かった雨蛙を見て、その命の尊さに感激したのだろうか。

 身体から取り出され、どれだけ長いか見せるために伸ばされた腸を見て、私はそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る