第13話「俺を待ってる人がいる」(2024/6/28)

「世の中には、俺のことを待ってる人がいるんだ」

 スーツが似合う男性社員の西原が、どこぞの宗教の胡散臭い教祖よろしく大仰に両腕を広げて言った。

「そうね、そう思うわ」

 隣の席の女性社員、東田が頷く。

「待ってくれている人を、これ以上待たせるのは、男としてあってはならないと思うんだ」

「そうね、そう思うわ」

「今日は交際記念日! 俺の彼女が自宅で料理を作って待っていてくれているんだ」

「あら、いいわね」

「そうだろう、そうだろう?」

「ええ」

「というわけで、お先に失礼します」

 鞄を引っ掴んで定時ダッシュしようとした西原の腕を、東原がむんずと掴む。その細腕からは想像できない握力50の馬鹿力だ。

「あんたの開発が終わるのを、次の工程の人たちがずっと待ってんのよ。分かってる? あんたがプログラム書いて実装したら終わりじゃないの! 結合テストにシステムテストに受け入れテスト、後工程が控えてんの!」

「いででででで! 腕が千切れるぅー!」

「とっとと座ってやることやって帰りなさい。あんたの仕事が終わるのを待ってる人がいるんだから」

 待つ人がいれば、待たされている人もいる。恋も仕事も計画的に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る