第12話「ナメクジ丼」(2024/6/27)

 私の日課は、庭で居候している地域猫のクロにご飯をあげることだった。

 玄関前の踏石がクロの食事処だ。お皿にカリカリを入れて出してあげると、ガツガツと喜んで食べた。クロのものは、全部私のお小遣いで用意した。


 じめじめとした湿気で服が纏わりつくようになった初夏のこと。いつものようにクロにご飯をあげに行くと、お皿の中にナメクジが2匹這っていた。私は悲鳴をあげそうになるのを必死に堪え、お皿を持って外の水栓柱まで走り、水をじゃばじゃばかけてナメクジを落とした。

 翌日、私は塩を買ってきて、踏石にこれでもかと振りかけた。白と灰色の斑模様のテーブルクロスを敷いたようになった踏石の上に皿を置いて食べさせた。ナメクジは来なくなった。

 ところが、ある日を境に踏石が水で濡れて塩が流されて、またナメクジが来るようになった。お母さんの仕業だった。私が抗議すると、こう言った。

「塩害が起こるからやめなさい。それに、クロだって自然の恵みだと思って食べるかもしれないじゃない」


 三十年後。私は、寝たきりになって言葉も話せなくなったお母さんに、食事を運んでいた。風呂で獲れたナメクジと茸を使った丼だ。

 お母さんは、涙を流して喜んでいた。

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