第11話「光と影」(2024/6/26)

 太った男が倒れた。高級そうなスーツも時計も、彼が吐き出したワインと血を浴びた。クリーニングや修理屋に出しても、元通りにはならないだろう。

 悲鳴が響く。混乱が伝播して、パーティの参加者たちは一目散にフロアから逃げていく。

 俺は、目を見開いて息絶えたその男の胸ポケットを漁り、鉛色の鍵を取り出した。


 光があれば、影がある。金も、贅沢も、幸せも、無限にあるわけじゃない。天井が見えてるモンを独占しようとする奴がいる以上、それにありつけなかった奴が出るのは当然だ。

 持つモンを持った奴は、よほど自分が可愛いらしく、大金を出してでも自分の命を守ってくれる護衛を雇う。さすがに、命は替えがきかない。だから、他人の命を使って自分は助かろうとする。


 俺からワインを受け取ったあの男も、光の側の人間だ。そして、俺の父は影の人間だった。あの男の影として、35歳で命を散らせた。

 光の側にいる奴らは考えもしない。影の側にだって、家族がいる。

 そのことを、身をもって分からせてやりたかった。

 この鍵はついでだ。あの男の屋敷の地下室には、金で買われた少年少女が監禁されている。主が戻ってこないんじゃ、餓死するからな。

 そう、ついでだ。

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