第10話「ビュッフェしか知らない男」(2024/6/25)

 心をダンスさせながら、うどん店に入った。

 野菜のかき揚げ、海老天、ちくわ天、ナス天、かぼちゃ天。そして、おにぎり。

 うどんだけでも目移りするというのに、おぼんを持って並ぶ間に視界に入る黄金の宝石たちに心をスティールされる。

「ご注文をどうぞー」

「期間限定メニュー、一番小さいサイズで」

 20秒ほどでうどんが出された。それを受け取れば、天ぷらタイムだ。

 目に入る天ぷらを次々と皿に載せていき、世界遺産級の輝きを放つ天ぷらタワーが出来上がる。てっぺんに座すのは、もちろん海老天だ。

 ついでにおにぎりも全種類取っていく。

 これが790円なんて、なんてスバラシイんだ。

 意気YoYoでレジに行くと、可愛いボーイが機械をたたいて、こう言った。

「お会計、2560円でーす」

 ホワット? ホワイ?

 外の幟には、期間限定メニューの写真とともに、『790円』と書いてあったジャマイカ!

 私がボーイに文句を言うと、

「あれはうどんの金額で、天ぷらやおにぎりは別料金なんです」

と言われた。

 なんたるトラップ!

 おぼんの上の2560円の世界遺産を一瞥して、私はボーイに尋ねる。

「半額にならんかね?」

「なりません」

 私の財布から英世がいなくなった。

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