100日連続小説 SS500

第9話「痴呆対策ミニマリスト」（2024/6/24）

　夫が魚を焼いたのを忘れて火をつけたまま放置してしまい、あわや大惨事になるところだった。グリルの上で火葬された魚の炭から、黒い煙がもくもく出ていた。

「使ったまま忘れるんだったら、魚を焼くの禁止！」

　妻は夫に宣言した。

　三日後。今度は妻がやってしまった。煮物を作ってる最中に電話がきて、話し込んでいたら料理中であったことをすっかり忘れて、鍋をだめにした。

　夫婦は相談した。歳を取って、今より忘れっぽくなった時、このままではご近所を巻き込む大問題を起こしてしまう。

　使っている最中で忘れてしまった場合は、何であってもを使用禁止にしようと決めた。

　ガス台で煮物を作ったまま火を放置したので、使用禁止。

　レンジでチンしたまま放置したので、使用禁止。

　冷蔵庫を開けっぱなしにして放置したので、使用禁止。

　アイロンを使ったまま放置したので、使用禁止。

　風呂にお湯を出したまま放置したので、使用禁止。

　電気を点けたまま放置したので、使用禁止。

　使用禁止。使用禁止。使用禁止。

　この年の冬。夫婦は、裸の状態の凍死体で発見された。