第8話「〇〇の子」(2024/6/23)
お隣だった松波トキさんのとこには、生まれたばかりの赤ん坊がおった。
赤ん坊が生まれてすぐに空襲がひどくなって、新しいとこに疎開しないといけなくなってな。ろくなお祝いもできずに、松波さんとは別れてしまって、ついにその子の名前は分からんままになってしまったのよ。
ようやく戦が終わって、あたしは何とか生き残ることができた。だけども、もう何も残ってなかったよ。あたしのおっ父は兵隊さんになって出かけたまんま帰ってこんかった。おっ母も、ばあちゃんも、弾に当たって死んじまった。
平和の
亡くなった人の名前が、そこにみんな書いてあんだ。
後から聞いた話だが、松波さんも亡くなったんだ。
ただの文字になっちまったけども、おっ母らの名前は残せた。だが、名前が付く前に死んじまった子や、戸籍が燃えちまって名前が分からん子は、『〇〇の子』って書いてあんだ。
きっといい名前を貰ってただろうにな。
あんな可哀そうな想いは、二度とさせちゃいかん。させちゃ、いかんよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます