第6話「死の呪文」(2024/6/21)

 部長に呼び出された。

「お前、そんな皺だらけの服でだらしないぞ! 少し営業成績がいいからって、調子に乗ってるんじゃないか!?」

 俺は昨年度の営業成績トップで、部長が持っていた歴代最高の売上成績を、入社後わずか三年で超えてしまった。それ以来、部長は何かと俺を目の敵にしてくる。

 ガザハべヘナド。

 俺は心のなかで、自分が作った死の呪文を唱えた。

「出勤してくるのは始業時間ギリギリだし、俺がこうして話しててもメモは取らないし、何を考えてる。俺が若い頃はな……」

 早く来たってやることは無いし、メモを取るような深い話はしてない。お前の昔話も自慢話も説教も、何一つ俺の脳細胞には残したくない。

 ガザハべヘナド。ガザハべヘナド。

 顧客訪問のアポの時間があると断り、愚痴る部長を放置して会社を出る。上司が屑だと、部下は苦労する。昔の栄光にしがみついていないで、文句があるなら結果を出して見返せばいいのだ。


 帰社すると、部長はいなかった。先輩の話では、電話に応対していた部長が、突然真っ青な顔になり、なにやら慌てて帰宅したそうだ。

「ちょっと会話聞こえちゃったんだけどさー、ありゃ不倫してるのバレたぜ」

 部長は、社会的に死んでしまった。

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