後編

家の中は埃っぽく、古い家具や雑貨がそのまま残されていた。


彼は幼い頃の記憶を思い出しながら、家の奥にある物置に向かった。


物置の扉を開けると、そこには古い家具や道具が乱雑に置かれていた。


亮介は懐中電灯を手に取り、奥の棚を探し始めた。


しばらく探していると、例の古びた写真と同じようなアルバムを見つけた。


埃を払ってページをめくると、驚くべきことに、同じ家の前で撮られた別の写真が次々と出てきた。


しかし、そこに写っている家族の顔は、どれも彼の記憶にはない人々だった。


「おかしいな…」


亮介は思わず声に出して呟いた。


その瞬間、背後から聞こえるはずのない声が耳に届いた。



「おかしいのは君だよ、亮介。」



驚いて振り向くと、そこには見知らぬ老人が立っていた。


老人の顔は、アルバムの中の写真に写っていた人物とそっくりだった。


青白い肌に深い皺が刻まれたその顔は、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。


「君は、誰なんだ…?」


亮介は震える声で尋ねた。心臓の鼓動が早まり、全身が冷たくなった。


老人は静かに笑い、言った。


「君がこの家を出て行った後、私たちがずっと君を待っていたんだよ。」


亮介はその言葉の意味が理解できなかった。


なぜ自分がこの家を出たのか、何を待っていたのか、全く思い出せない。


ただ、全身が冷たい汗でびっしょりになり、心臓が激しく脈打っていた。


「さあ、戻ってきたんだ。今度こそ、永遠に一緒だよ。」


老人の言葉が、亮介の意識を闇に引きずり込んだ。


視界がぼやけ、意識が遠のいていく中、亮介は全ての記憶が蘇るのを感じた。


しかし、その記憶が完全に戻る前に、彼の意識は闇に飲まれていった。


亮介が目を覚ますと、そこは見覚えのある古い家のリビングだった。


しかし、何かが違う。時間が止まったかのように静まり返り、窓の外には闇が広がっていた。


家具は古びており、部屋全体に薄暗い雰囲気が漂っていた。


「ここは…どこだ?」


亮介は呟きながら立ち上がった。


足元には、古びた写真が散乱していた。


拾い上げると、そこには自分自身が写っていたが、その顔はどこか不自然に歪んでいた。


亮介は混乱しながら周囲を見渡した。



「亮介、ここにいたのね。」



背後から女性の声がした。


振り向くと、そこには写真に写っていた女性が立っていた。


その顔は異様に美しく、どこか冷たい笑みを浮かべていた。


「あなたは…?」


「私は君の母親よ。ここに帰ってきてくれて本当に嬉しいわ。」女性はそう言って、亮介に近づいた。


「いや、君は違う…俺の母親じゃない…」


亮介は混乱しながら叫んだ。


しかし、女性はそのまま亮介を抱きしめた。


その腕は冷たく、まるで氷のようだった。


「大丈夫よ、亮介。もう怖がることはないの。ここは君の本当の家族がいる場所なんだから。」女性の声が耳元でささやいた。


その瞬間、亮介の記憶が一気に蘇った。


幼い頃、自分がこの家で暮らしていたこと、本当の家族が目の前の人々だったこと。


そして、自分がこの家を出た理由――それは



この家族が全て殺され、自分だけが生き延びたという忌まわしい過去だった。


「君たちは…幽霊なんだ…」


亮介は震えながら言った。


「そうよ、亮介。でも、もう逃げる必要はないの。君も一緒にここに残るのよ。」女性の声は優しかったが、その言葉には不気味な力が込められていた。


亮介は必死に逃げようとしたが、足が動かなかった。


まるで地面に縛り付けられているかのように、その場から動けなかった。


そして、周囲の闇から次々と家族の亡霊たちが現れ、亮介を囲んだ。


「永遠に一緒にいようね、亮介。」彼らは口々にそう囁いた。


その瞬間、亮介の意識は再び闇に沈んだ。そして、次に目を覚ました時、彼はもう人間ではなかった。


古びた家の中に、新たな幽霊が一人加わった。亮介は永遠にその家に閉じ込められ、本当の家族と共に過ごすことになった。そして、彼が忘れていた記憶と共に、永遠に続く悪夢が始まったのだった。

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永遠の家族 たたり @tatarikuro

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