或る死刑囚
「畠中、奴は短期間で六人も人を殺している鬼畜だ。くれぐれも気を抜くなよ。」
「はい!」
先輩刑務官である房岡さんの厳しい声に、僕は改めて気を引き締めた。
ここは、東京都、
僕、畠中は、半年前からこの雛呼一級刑務所に勤務している。
「一級」刑務所という大仰な名前こそついているものの、実際他の刑務所と大きく異なる点は特にない。刑務官の仕事内容もほとんど同じだ。
ただ、一つだけ大きく異なる点を挙げるとすれば…
「失礼します。」
元気があるのかないのか分からない微妙なトーンの挨拶と共に、一人の青年が入室してきた。彼は意外にもきびきびと歩き、椅子の横まで来ると、「座ってもよろしいでしょうか。」と僕に微笑みかけた。許可すると、彼は礼を言って席に着いた。彼と向かい合わせになる。さらさらの黒髪、端正な顔立ち。ここに来る前はさぞかし女性にモテたのだろう。
彼は口元に微かに笑みを浮かべ、僕の次の言葉を待っているようだった。
その余裕そうな表情を見て、体が強張る。忘れてはならない。目の前にいる、一見好青年にも思えるこの男は、六人もの人を殺害した極悪非道な殺人鬼なのだ。
この刑務所には、月に一度死刑囚と刑務官が面談をする、通称「月一面談」がある。これが、他の刑務所と大きく異なる点だ。原則として、面談を担当する刑務官は毎回変わり、面談の内容は録画される。
僕は手元の資料にちらと目をやった。
その一文だけがぽつんと書かれている。
面談を担当する刑務官に渡される資料には死刑囚の名前と年齢しか記されない。これも、月一面談の決まりだった。
目の前の青年に視線を戻し、僕はゆっくり話し始めた。
「それでは菊池野さん、面談を始めさせていただきます。」
彼は、柔らかい笑みを浮かべながら、頷いた。
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