第20話 50円ばばあの住む森。
これもまた、小学生時代の話になりますが。
心霊系の話とは別に、流行っていたのが「都市伝説」でした。
うちのほうで、一番出回っていたのは、口裂け女。
うちの学校の隣に、交番があったのですが……。
ある日、先生がホームルームの時間に言いました。
「昨日、交番に『口裂け女が出ました』って言いに来た小学生がいたそうです」
みんな「えー!」「こわいー!」などとざわつきましたが、先生は笑いながら一言。
「口裂け女なんて、いません。交番にそんないたずらをしに行かないように!」
それで終了でした。
怖いと言いつつも、いない、という事実を、みんなわかっていたんですよね。
ただ、ひょっとしたら? もしかしたら? いるかもしれないよね?
みたいなノリだった気がします。
そんな都市伝説が、私の地元にもありました。
隣市との境目にある川沿いの雑木林に『50円ばばあ』が住んでいる、という噂でした。
50円ばばあの噂の内容は……。
〇50円ばばあと遭遇すると、「50円よこせ!」と脅される。
↓↓
①50円渡さないor50円持っていない。→リンチされて半殺しにされる。
②50円渡すor50円奪い取られる。→顔面パンチで鼻血ブー。
なんということでしょう。
渡しても渡さなくても、痛い目に遭わされてしまうのです。
救いのない状況になるため、50円ばばあに遭遇したら、ダッシュで逃げなければいけないのです。
ですが、この手の「逃げる」選択をする場合、大抵が、相手がめちゃくちゃ速く走るものなんですよね。
50円ばばあも、マッハで走るとか言われていたので、逃げることは無理だったでしょう。
そんな、ばばあが住むと言われていた、川沿いの雑木林の隣には、大きな工場がいくつか並び、周りは畑や田んぼが広がり、住宅も会社の社宅のような団地タイプの建物が多く建てられていて、木々と建物でいつも日陰になっているような場所でした。
昔、タクシー強盗殺人もあった、人通りも外灯も少ない場所です。
この川沿いは、明治のころまで舟運の船問屋があって、当時の建物がそのまま記念館になっているため、学校の課外授業で見学に出掛けることがありました。
薄暗い雑木林と工場に挟まれた細い道を行くのですが、そのとき、男子が数人、雑木林に入り込んで追いかけっこをしてふざけていました。
すると突然、叫び声が聞こえ、なにごとかと見にいくと、新聞紙に包まれた、剥き出しの生肉が転がっていたのです。
鳥のもも肉の巨大版、みたいな感じで、先生は「多分、豚の後ろ足じゃあないか?」と……。
なんだって雑木林に、生肉が新聞に包まれて落ちているのか……。
誰かが言います。
「きっと50円ばばあが食べたんだ!!!」
まさかの思考ですが、正直、豚の生レッグなんて、まず見ることはありません。
しかも、雑木林で。新聞に包まれて。
お肉屋さんとかに、たまーにぶら下がっていたのは、何度か見たことがありましたが、それはそれ。
50円ばばあが食べた、というのに、みんな妙に納得していました。
生肉が落ちていた理由は未だにわかりませんが、当時は近くに養豚場があったので、そのあたりになんらかの関係があるのかな、と思ったり。
ですが、その生肉のせいで、50円ばばあの存在が、ものすごーく大きなものになりました。
数週間は、そっち方面に近づかないようにしていましたね。
出会って半殺しになるのも、鼻血ブーも嫌だったので。
そんな雑木林も、今は綺麗に整備され、薄暗さは残っているものの、家族連れの遊び場になっています。
もう、50円ばばあの話など、誰も知らないことでしょう。
それにしても、良くわからない都市伝説です。
なぜ50円だったのか……?
それも謎です。
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