第4話 運動会のお弁当。

 少し時間が飛びます。


 私が小学生のころ、運動会は、春と秋、二回ありました。

 春は、徒競走や綱引き、玉入れなどの競技のみ。

 秋は、徒競走などの競技のほかに、二学年ごとにダンスや組体操が。


 今回の話は、小学校五年生のときの、秋の運動会の話です。


 午前中の競技が終わると、昔は見学に来ていた親と一緒にシートを敷き、家族ごとにお昼ご飯を食べていたんですが、親が来られない子も多かったので、いつからか、クラスごとに教室で、お弁当を食べるようになっていました。


 この日も、教室でみんながお弁当を広げていたそのとき。

 商店街でも、うちより駅に近い場所にある、うなぎ屋さんの息子『保谷ほやくん』の席周辺で、ざわめきが起こっていました。


 なんだろう?

 そう思って、保谷くんのほうをみてみると……。


 彼はクラスの男子の中でも、体つきが大きい子だったので、普段も割と大きめのお弁当だったのですが、この日は、机の上に広げられたお弁当が、三段重ねの重箱でした。

 よく、おせち料理が入っているような大きさの、重箱です。


 そして、驚くべきは、重箱の大きさだけじゃあなく、その中身でした。


 一段目は、うな重。

 二段目は、栗ご飯。

 三段目に、おかず類。


 さすが、うなぎ屋さんです。

 小学五年生にして、お弁当がうな重。

 なかなか、あることじゃあないでしょう。


 加えて、栗ご飯もあるという……。

 と言っても、さすがに量がありますよね?

 保谷くん曰く、「お母さんが、先生にも分けなさいって言った」との事で、半分は担任の先生のお腹に収まることに。


 当時は、あまりのインパクトに、しばらくの間、運動会の内容よりも、保谷くんのお弁当の中身が話題になっていました。


 それにしても……。

 それから何年も、色んな人のお弁当をあちこちで見る機会がありましたが、未だに三段目重ねの重箱のお弁当を持ってきた人に、遭遇したことはありません。

 うな重だった人も、見たことがないです。


 お弁当……奥が深いです。

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