第13話 平穏な生活を望む

「...」


唖然とするナターシャ。

ナターシャは「妃さん...」と困惑している。

実はナターシャも妃さんを知っている。

何故知っているのか。

それは...。


「やあ。ナターシャ。可愛いね。いつも」


実は俺の事で芋づる式にナターシャも知った妃さん。

妃さんはナターシャも好いている。

というか知り合いなら何でも好いているのが妃さんだ。

これは俺に対しては恋愛感情というのか?


「もう!止めて下さい!」

「まあそう言うな。結構久々だよね」

「久々ですけど私はそんな趣味は無いです」

「ほう?」


俺達は3人で近所の公園に集まっていた。

そこでナターシャと妃さんを会わせたのだが。

ナターシャは「もー。妃さんがベタベタ」と毛嫌いしていた。

俺は苦笑しながらその姿を見る。

妃さんはナターシャに頬ずりをしていた。


「ナターシャももしかしてえーいちが好きになったのかい?」

「そうですね...っていうか知っているでしょ」

「そうかい?私は初めて知ったけど」

「嘘ですよね!?」

「ふむ」


そんな会話をしながらナターシャは妃さんを見る。

俺はその姿を見ながら自販機で飲み物を買った。

3人分。


ナターシャには甘い缶コーヒー。

妃さんはブラックコーヒー。

俺も甘いコーヒー。


「おや?気が利くじゃないか」

「妃さんは甘いの苦手でしたよね」

「そうだね。私はブラック派だね」

「有難う。お兄ちゃん」

「いや。良いよ」


俺達は3人で缶コーヒーを開ける。

それからまるで親子の様に一緒に飲む。

そして息を吐いた。

一緒すぎる。


「ところでナターシャ」

「はい。妃さん」

「私に譲ってくれるかね。彼を」

「譲りませんよ!!!!!」

「ほう。何故かな?」

「今聞いたでしょ!」


面白いな。

そう考えながら俺は2人を見る。

「もー!だから妃さんとは会いたくなかったんだよー」と言う。

ナターシャは俺の腕に腕を絡ませる。


「おにーちゃん助けて」

「助けようがないぞ」

「まあまあ」


そして妃さんは缶コーヒーを飲んでから缶を捨てる。

「私がこの場所に来たのは...知ってるよね?」と俺達に真剣な顔を向ける。

ナターシャは「お兄ちゃんを含めたお見合いの話ですよね」と妃さんを見た。

俺は、またそれか...、と思いつつ黙る。


「その通りだ。だが私は恋愛感情がある訳では無いの...いや。それは失礼か。私は...そもそも男性を好きにならないからね。無理にするなら逃げるだけだ」

「...分かります」

「私にはそんな力は無いから。...だからこそ私がこの場所に来たのは。...決着を付けようと思ってね。過去と」

「...」


妃さん。

彼女は...金持ちだ。

医者の世代の総合病院の...いや。

3世代に渡り病院を経営している。

資産が30億円あるとかいう話も聞いた事があるが。


「...私は今は結婚する気は無い」


そう妃さんは断言した。

それがあるから俺も(無理には)と思っている。

それから親から逃げ回っている。

俺はその妃さんを見ながら「平凡が欲しいんですよね」と言う。

すると妃さんは「そうだね」と返事をした。


「...私は親に縛られる事の無い生活を望んでいる」

「...」

「...遺産とか土地は要らない。平凡が欲しい」

「...ですね」


妃さんの顔を見ながら頷くナターシャ。

正直お金持ちの感覚が良く分からん。

だが平凡が欲しいという事は。

かなり妃さんは大変という事だ。


「私が望むのは平穏で1人で暮らす事だ」

「...ですね」

「かつての君達との関係を築きたいしな」

「...そうですね」


俺は納得しながら妃さんを見る。

ナターシャは缶を捨てる。

それから「妃さん」と妃さんを見る。

妃さんは「うむ?」と言いながらナターシャを見る。


「...親に話したらどうです?嫌って」

「残念ながらそういうのは他人事だよ。彼達はね」

「じゃあ私達が一言、言いたいんですけど」

「...君達が言いたいのは分かる。...だが彼らは...堅苦しいからね。他人の言う事に耳を貸さない。自分達が良ければ全て良しな連中だからね」

「あり得ないんですけど...」

「...私の平凡はそうして奪われた」


妃さんは肩を竦めながら空を見上げる。

俺はその顔を見ながら居ると妃さんは「じゃあまあそろそろ」と立ち上がる。

それから俺達を見る。

そして笑みを浮かべた。


「帰る。今日は有難う」

「...一方的に攻め込まれただけですよ」

「はは。すまない。それが私だからね」

「...大丈夫ですか」

「大丈夫では無いと思う。だがまあ面倒ごとはなるだけ排除したいからね」


そう言いながら「今日は楽しかったよ。久々に」と笑顔になる妃さん。

俺はその姿を見ながら居るとナターシャが妃さんに溜息を吐いた。

それから「何かあったら言って下さいね」と言う。

妃さんは「随分とたくましくなったな。ナターシャ」とニコッとした。


「だけど何も出来る事は無い。私は偶然、君達の場所を知って来ただけだからね」

「...妃さん...」

「まあいずれにせよ。何かあったら言うよ。...宜しくね」


それから妃さんは手を振ってからそのまま前を見たまま去って行く。

俺達はその姿を見ながら「...」となる。

大変だな、と。

そう思いながら、だ。

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