第12話 えーいち

「...あ、彩香?何をしている」

「見て分かる通りだけど」

「...お、お前...ここは学校だって知っているのか」

「知っているけど?...知っているけど?」


二回何故言ったのか分からないが。

コイツ目がマジだ。

ヤバい気がする。

そう思いながら彩香から離れる。

だが彩香はゆっくり近付いて来る。


「...あ、彩香。冗談は止めろ。お前...マジに何をしている!」

「ねえ。栄一郎。私、貴方に告白をしたよね」

「し、したな。だから?」

「だ、だから...私は...」

「もしかしてさっきのナターシャにあてられているのか?だったらもう止めろ。...こんなの無意味だ」


そう言いながら俺は「全く」と呟きながら彩香を見る。

すると彩香は何を思ったか上を脱ぎ始めた。

前言撤回。

コイツ無理だ。

本気になっている。


「彩香!?ふざけんな!止めろ!」

「わ、私だって」

「私だって、じゃない!」


俺は彩香を取り押さえる。

それから彩香を見る。

彩香は涙を浮かべながら潤んだ瞳を俺に向ける。

俺はその顔に真っ赤になる。

それから目線を外した。


「...そういうのはまだ早い」

「じゃあ私はどうすれば良いの。私は...ナターシャみたいにあげられるものが何も無い」

「...もう貰っている」


そう言いながら俺は彩香を見る。

彩香は「え?」という感じで俺を見てくる。

俺は「お前が好きって言っているのは分かった。重々分かった。だけど今は大丈夫だし。しかもまだその時でも無い」と言う。

そして俺は彩香の頭を撫でる。


「...俺はナターシャに靡いている訳では無いししかもお前に靡いている訳じゃ無い。心配しなくても俺は必ずお前に返事をするから」

「...そう」

「ああ。だから今は...そういうのは止めてくれ」


俺はそう言いながら彩香を見る。

彩香は俺に対して「うん」と返事をした。

そして俺は彩香の頭をもう一度撫でた。

それから表に出る。


「...虹さんが吹き込んだんだよな?」

「そうだね」

「...困った子だな」

「そうだね...だけど私は彼女の行動は称賛している」

「...そうか。お前の大切な妹だもんな」

「うん」


そして俺達は視聴覚室に鍵を掛けた。

それから改めて俺達は職員室に向かう。

そうしてからノックをした。

プリントを届けてからそのまま表に出る。



私は大胆な事してしまったと思う。

だけどこうしないと栄一郎は靡かないと思った。

でも私は焦っている様だ。

全てにおいて。

そう思いながらトイレに行くと話した栄一郎を置いて先に教室に帰ると。


「やあやあ。どうだったかね?」


江美子がふざけて聞いてくる。

私は「まあ...色々あった...よ?」という感じになる。

すると江美子は「?」を浮かべて私を見た。


「それって何かあったの?」

「...えっと...な、何も無い、けど」

「...フーン...」


私は赤くなって目を回す。

至近距離に江美子の顔が来る。

とにかく隠さなければ。

そう思いながら私は江美子を見る。


「江美子。何も無いって」

「本当に?じゃあ面白く無いねぇ」

「さっき逃げたでしょ。江美子」

「ま、まあさっきはさっき。今は今」

「全くもー」


そう言いながら私は江美子を見る。

そして椅子に腰掛ける。

すると栄一郎が帰って来た。

私は赤面しながら前を見てみる。


(馬鹿だなぁ私)


そんな事を考えながら栄一郎を見る。

栄一郎は赤面してからワタワタと反応する。

私は何だかその姿に面白くなってから「アハハ」と言う。

そして江美子を見た。


「...もう大丈夫。江美子」

「ん?大丈夫なの?何が?」

「...私は困ったりしない。栄一郎の事で悩んだりしない」

「ああ。そういうのね。...何かあったんだね。やっぱり」

「な、ナイショ」


そして私はチャイムの音を聞いてから江美子を見る。

江美子は「じゃあね」と言ってから手を振ってそのまま去って行く。

私はその姿に手を振り返した。

それから私は頬を叩く。


「よし」


私は顔を上げた。

それから勉強に集中する為。

ノートを広げた。

そして放課後を迎えた。

私は栄一郎の元に向かう。



「栄一郎。行こうか」

「...そ、そうだな。行くか」


そして私は栄一郎を見る。

栄一郎は赤面しながら私を見てから咳払いをした。

因みに根本くん、江美子は先に帰った。

その為居るのは。

掃除当番と私と栄一郎と一部の生徒だけだ。


「...栄一郎。変に緊張しなくて良いから」

「...まあそれは分かっているんだがな」

「うん」

「...だけど俺は...」

「うん。そうだね」


私は栄一郎の手を取ってから昇降口から出る。

そして歩いていると背後から「あ。やっと見つけた」と声がした。

栄一郎が先にそっちの方角を見ている。

私も同じ方向を見る。

そこに「えーいち。ひさびさ」と笑顔になっている...セーラー服姿の女子が居た。


顔立ちはかなり幼い。

小学生かと思ったが違うようだ。

どうなっている?


「お前...もしかして...」

「山口妃(やまぐちきさき)だよん」

「久々ですね...その。こっち戻って来てたんですね」

「栄一郎?誰?」

「俺と1つ違いの年上の女子だな。俺にとってはお姉さんかな。山口妃さん」


山口さんという人は笑顔になりながら私に手を振る。

それからニコッとしてから「えーいち。じゃあ当時みたく...イチャイチャしようか」とニコニコした。

は?


「妃さん!それは...」

「良いじゃん。あれだけ身体を見せ合いっこしたのに」

「んぐぅ!」


栄一郎は真っ赤になる。

私は唖然としながら山口さんを見る。

何と言ったのだ。

今...はい!?

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