生きるのは命懸け
腹が減っては戦はできぬ。今の状況をこれほど的確に表現する言葉はないだろう。服に潜水機能をつけたまでは良かったが、残り少ない食料を切り詰めて生活するのにも限界がある。
「ねえ、ローラン。この付近で水や食料を調達できないかな」
「水についてはご安心ください。海水から塩分を蒸発させればすみます。食料については……浮遊クラゲなどの生物から調達するしかないでしょう」
浮遊クラゲか。あれには苦い記憶がある。体温偽装スーツがあるとはいえ、どこまで通用するか怪しい。
「オーケー、浮遊クラゲを倒して食料確保といこうか。すでに特徴も分かっているし、他の生物より戦いやすいはずだ。それに今回はニコラもいるし」
「なるほど。では、夜戦を提案します。ニコラは黒い外見ですから。それにアンドロイドですから、温度調整も簡単です。何より浮遊クラゲは青白く発光しますから、発見も容易です」
「じゃあ、夜になったら起こしてくれ。ニコラがいれば安全だからね。そうだろう?」
「ええ、ガードはお任せください」とニコラ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「レオン……です……。……になりました」
遠くから、僕を呼ぶ声が聞こえる。ああ、ローランの声か。どうやら夜になったらしい。あくびをしつつも、ベッドから起き上がる。もう少し寝ていたかったが、贅沢は言えない。
「ローラン、そういえばどうやって浮遊クラゲを見つけるんだい? 向こうからやって来るのを待つのは時間の無駄だろう?」
「それは大丈夫です。前回遭遇した時に、発光組織を分析しています。ニコラが空に索敵ドローンを打ち上げて、動く発光組織を見つければすみます」
なんと、あの危機的な状況下で僕を守りつつも、浮遊クラゲの特徴を分析していたとは。さすがとしか言いようがない。
僕とニコラが外に出ると、夜独特の寒さが襲って来る。まあ、ニコラにとっては関係のないことだけど。
「ニコラ、早速索敵ドローンを打ち上げて。さっさと終わらせよう」
「かしこまりました。索敵ドローンを射出しますので、離れてください」
シュッという音と共にニコラの腕からドローンが飛び出る。それは楕円形でニコラの体と同じく黒色。大きさは僕の握り拳くらいだろう。実戦で使うのは初めて見たので、少しワクワクする。これから浮遊クラゲとの戦闘が始まることを考えても。
「索敵完了。300メートル東に発光物体を確認。こちらの熱源を探知したのか、徐々に向かって来ます。浮遊クラゲは二匹いる模様です」
「二匹!? 一匹でも手こずったのに……」
「ご安心ください。今回は私がいますから」とニコラ。
確かにニコラがいるが、あくまでも防御特化だ。電気銃による攻撃は僕が担当しなければならない。VRでシュミレーションしたのがどこまで実戦で通用するかが試される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「敵との距離が50メートルを切りました。体温偽装装置を作動させてください。私も同じく低温モードに切り替えます」
僕がスーツのボタンを押すと全身が冷たくなる。この感覚は慣れないな。
しばらく息を殺して待ち受けていると、ニコラの情報通り二匹の浮遊クラゲがぷかぷかと浮かびながら、不気味に発光している。触手で何かを探しながら。
「私が先に低温モードを解除して囮になります。その間に射撃をお願いします」
僕は頷くと手に持った電気銃を握りしめる。手汗で滑らないように、両手で支えながら。
ニコラは立ち上がると、落ち着いて浮遊クラゲに向かって歩いて行く。向こうが熱源を察知したのか、触手の動きが早くなる。そして、次の瞬間、触手が剣のように真っ直ぐになり、鋭利な刃先でニコラを攻撃する。しかし、それと同時にシールドを展開していたニコラは無傷だった。どうやら、触手は熱源の探知と攻撃の役割を担っているらしい。僕の知っているクラゲの触手とはだいぶ違う。
いつまでも観察している場合ではない。ニコラにも稼働時間の限界がある。エネルギーを補充できるのは船内だけだから。僕はしゃがんで狙いをつけると電気銃の引き金を引く。浮遊クラゲの触手に命中したが、効果はみられない。こちらの存在がバレたのか、一匹がこちらに向かって来る!
慌てるな、落ち着いて対処だ。先ほどの攻撃からするに、触手は弱点ではないらしい。じゃあ、あの不気味な発光器官か? しかし、触手を避けて当てる技術は僕にはない。いや、僕になくてもニコラにはある。
「ニコラ、これを使って! ドローンにくくりつけて、発光部の攻撃を!」
地面に電気銃を滑らせると、ニコラが空いている右腕でキャッチする。すぐさま左腕のドローンに装着すると、空中に浮かべる。ドローンはニコラの制御で触手を潜り抜けると、発光部位に電撃を浴びせる。予想通り、浮遊クラゲは地面に倒れる。よし、もう一匹もやれる! ドローンがもう一匹に迫った時、急に浮遊クラゲが飛び上がると、独特の発光液体を撒き散らしながら、破裂する。
飛び散ったそれが地面に降り注ぐと、現れたのは巨大な鳥のシルエットだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。