金属の秘密

「ハドソンキャニオン跡地に到着しました」



 そこは小高い丘だった。もともとは海底の峡谷でも、水陸が逆転すればこうなるのか。海底にあった名残か海水で削れたであろう箇所やサンゴのようなものが所々にある。



「それで、どのあたりを採掘するべきかな」



 こうも広くては砂漠の中で針を探すようなものだ。



「ご安心ください、レオン。この船の真下が候補地です」



「さすがだな、ローラン。ロボットアームの操縦かんを準備して。さっそく掘り起こそうよ」



 ウィーンという音とともに操縦かんが近づいてくる。僕は拡大鏡を取り寄せると、地面に目を凝らす。どこに資源がありそうという手掛かりはぱっと見つからない。鉄やニッケルが埋まっているから、ローランはここを候補地にしたはずだ。



「ねえ、もっと具体的に分からないかい?」



「それが……金属探知機に反応はあるのですが、対象が動いています」



「鉄が動く? それはおかしいよ。その探知機、壊れてるんじゃない?」



「少々お待ちください。……やはり、動作は正常です」



 探知機がちゃんと機能しているのなら、地下にある物体がおかしいことになる。もしや――。その時、急激にドンという音とともに宇宙船が下から突き上げられる。体が一瞬宙を舞うと、すぐに床に叩きつけられる。「痛い!」



「ローラン、何が起きた?」



「船体の下部が破損しました。なんらかの障害物にあたったようです。……これは障害物ではないです! 何かが地面を這いずり回っています」



 拡大鏡で外を見ると、モグラのような生物がそこかしこに穴を掘っている。その頭には光り輝く角があり、それが回転している。どうやら、前あしではなく、角で掘るように進化したらしい。便宜上、角モグラと呼ぶならば、これの角が金属製なのに違いない。



「こいつの動きを止めることは出来る? たぶん、無害だと思うから、角だけ削りたいんだけど」



「麻酔銃はいかがでしょうか。推定体重から適切な麻酔量を計算できます」



「よし、それでいこう」



「推定体重を計算中……。計算完了しました。麻酔針の準備に入ります」



 これの角は何でできているのだろうか。金属なのは間違いない。問題は船体を補修するのに役に立つかどうかだ。



「麻酔針をロボットアームに取り付けました。いつでも発射可能です」



「オーケー。角モグラの動きを予測してルートを表示して欲しい」



 すぐに拡大鏡に薄い赤色でルートが表示される。よし、このポイントに来たら発射しよう。そうしてタイミングを見計らっていた時だった。再び船体が揺れたのは。



「あっ」



 体の揺れを抑えるために操縦かんを握り、発射ボタンを押してしまった。当然、麻酔針は角モグラに当たっていない。どうやら、角モグラが再び船にぶつかったらしい。



「ローラン、次の麻酔針の準備はいいかい?」



「麻酔針は準備できますが……。外し続ければ、他の害獣に出会った時の選択肢が一つ減ります。ここは電気銃を使うべきです」



「……分かった、それでいこう。今度はロボットアームに電気銃を装着。発射タイミングはローランに任せるよ。手動で充てられる自信がない」



「了解です。3、2、1、発射! ……命中を確認しました」



 外を見ると、角モグラが横たわっていた。足を引くつかせて。「角の切り取り作業もお願い」と言うと、イスにもたれかかる。生き物を殺すのは好きじゃないけれど、緊急時にはしょうがない。自分が生き延びるためなのだから。



「角が目的だったけど、本体は食べられそう? もしかして浮遊クラゲみたいに毒があったりする?」



「毒はなさそうです。適切な処理をして冷凍保管庫で保存します。問題の角ですが、船体の補強には使えなさそうです。ありふれた鉄なので」



「そうか、残念だけどしょうがないか……」



「レオン、一つ提案です。この鉄を使ってアンドロイドを作りませんか?」

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