第8話 幽霊屋敷へようこそ

 君たちは知っているのだろうか、この街には都市伝説があるということを。


「今日は寄り道して帰ろうぜ」


 町の少年幹人が元気そうに言う。


「おういいぜ」


 別の少年秀太がそれに同意する。この二人は友達である。この二人は小学校の同級生であり、とても仲がいい。今日は、というか毎日二人とも寄り道しないで帰りなさいとお母さんから言われている。しかし、二人は今日も寄り道をする。


「じゃんけんポイ」


 二人はじゃんけんをする。鬼ごっこの鬼決めのためのじゃんけんである。じゃんけんの結果幹人が鬼になった。


「幹人に俺が捕まえられるかな?」


 秀太はにやにやしながら言う。実際秀太は足が速く、学年で三番目の足の速さである。


「ほい」


 幹人がようやく秀太をタッチする。


「くそ、幹人にタッチされるとは」

「これが頭脳の勝利だよ」


 実際幹人は秀太の逃げ道をふさぎながら、壁の方向に追い込んでタッチしたのだ。


「タッチ」


 幹人はすぐにタッチされた。


「くっそー。足速すぎるんだよ」


 そして鬼になった幹人は懸命に秀太を追い続ける、しかし秀太は学んだのだろうか、端には決して行かず広いフィールドを利用し逃げ回り、幹人はそれを捕まえるのに莫大な時間を要した。


「ハアハアやっと捕まえた」


 次に幹人が秀太を捕まえられたのは三〇分後のことであった。二人とも額から汗を流している。


「てか、さすがに帰るか」

「もう帰るのはさすがに早すぎるだろ、もうちょっと遊ぼうぜ。幹人はビビりだな」


 秀太は軽く幹人を挑発する。


「うるさいな、じゃあもう少し遊ぶわ」


 幹人は軽くキレながらそう返した。


「次はサッカーしようぜ」

「わかったわかった」


「おいさすがにもう六時半だぜ、そろそろ帰ろうよ」

「確かにもうこんな時間か、そろそろ帰らないとマジで親にキレられる可能性があるな」

「おう、帰ろう」


「あれ、この道さっきも通らなかったか?」


 幹人は不思議に思う。そう、二人はもうこの道を三回は通っているのだ。


「確かにな、どうなっているんだ」


 この時はまだ二人とも帰れると思ってたし、自分の勘違いだとおもっていた。そう、まさにこの時までは。


「なんで帰れないんだ?」

「ああ、さすがに怖いな」

「だから早く帰ったほうがいいって言っただろ」

「お前ももう少し遊ぶっていうことに納得してたじゃねえか」

「そうだけどよ」


 二人ともそんなことを少し楽しそうに話した。二人にとってこれはホラー体験ではない、ただの日常のイベントなのだ。実際お化けには意外にも子供よりも大人のほうが怖かったりする。子供は鈍感だから意外と怖がらないのだ。子どもというものはそういうものなのだ。


「おい、何回このみちを通っているんだよ」

「知らん、俺に聞くなよ、秀太」

「でもよ、さすがにおかしくねえか、あの時計もなぜか十二時で止まっているし」

「確かに、言われてみればそうじゃねえかよ、幹人俺を助けてくれ」


 二人とも事態の深刻さに気付いたようだ。そう今彼らが今いるのは現実の世界ではないのだ。


「おい、あそこに見えるのって」

「ああ、屋敷だな」


 二人の前にはぼろぼろのお屋敷がある、一見怖そうに見え、幽霊が出そうな感じに見える。


「おい、幹人どうする」

「やめとこう、ああいう屋敷は入ってもろくなことが起きない、本で読んだだろ」


 本とは学校にある怪談本のことだ。そこには謎の建物に入った狩人が巨大な虎に食べられるという内容であった。


「そうだけどよ、でももう疲れたし休憩したいよ」

「だめだ、俺は絶対入らない」

「わかったよ、もう少し歩くよ」


 秀太はしぶしぶながら同意する。彼にとってもあの屋敷が怖い場所であるのは間違いないのだ。


「おい、幹人どんだけ歩いてもあの屋敷の前に来るし、周り森だしもうわけわからねえぞ」


 秀太は泣きながら幹人にすがる。


「仕方ない、入ろう」

「でもいいのか? 本当に入っていいのか?」

「仕方ねえだろ、たぶんこの屋敷に入らないと何も始まらないよ」

「わかった」


 幹人は堂々と秀太はびくびくしながら屋敷の中に入っていく。


「ひいいいいいいいい」


 秀太は屋敷に入るや否や秀太が悲鳴を上げる。

 中にはさっそく血まみれであり、足に釘が三本程度刺さっているほうたいでぐるぐる巻きになっている中年ぐらいの年齢の男がいた。幹人の読み通りここは幽霊屋敷のようなとこらしい。


「ようこそいらっしゃいました、ここはミルトリア館です。久々の客人をご丁重におもてなし致します」


 ミイラ男は丁寧なあいさつで幹人たちを迎える。しかし、秀太の顔はまだ少しだけ青ざめている。怖いのだ。


「な、なあもうここから出ようぜ、ほかの方法考えようぜ」


 そう秀太は幹人の背中に隠れながら幹人に提案をする。秀太はもうここにはいたくないのだ。


「だめだ、ここからは出ない。それにおもてなししてくれるんだから受けようぜ」


 幹人は秀太の頭をなでながらそう強く言う。彼には自信があるのだ、ここから無事に家に帰れるという自信が。


「おなかがすいたでしょう、まずは食事を用意します。おい、ルドフルレ、ミレイバ、客人に食事を運べ」


 そう蝙蝠男が命令をする。


「かしこまりました。今すぐ運びましょう」


 そう足のない顔が青白いルドルフレが承諾し、すぐさま釘が数本顔に打ち込まれている緑色の顔をしたミレイバと共に奥の部屋に入っていく。


「幹人、幹人、怖いよ助けてよ家に帰してよ」


 秀太は相変わらず現実を受け入れられずに駄々をこねる。


「お先にダイ二ングルームにご案内しましょう」


 そう笑顔でミイラ男がダイニングルームに案内をする。秀太は相変わらずビビりまくりで自分の足で歩こうとしないので、幹人が無理やり手を引っ張る。


「幹人、手が手が痛いよ」

「嫌だったら自分で歩け」


「幹人、ここに座ればいいんだよな」


 秀太はから質問をする。秀太は怖すぎて自分で判断ができないのだ。今彼の思考能力は言うなれば赤ちゃんレベルだ。


「決まっているだろ」


 それに対して幹人はため息をつきながらそう軽く受け流す。


「では皆さんさっそく話を始めましょう、この屋敷の謎を」


 ミイラ男はそう怖い感じでシリアスな感じで話し始める。


「ここはもともとは普通の屋敷でした、豪華で豪華な屋敷です。しかし、ある日を境に変わってしまったのです。あの魔女ラヴィアンリッドが現れた時から」


 ラヴィアンリッド、新しい単語が出てきて幹人はなおさら集中して聞く。


「彼女が我々を醜い姿に変えたのです。こんな姿に」

「そうなんですか」

「だから彼女を討ってほしいんです」

「わかりました」

「じゃあまずはご飯を食べていきましょうか」

「はい」


 外から豪雨が降る音がする。雷の音もする。その音に秀太は耳をふさぐ、そしてミイラ男は静かに芯の通った声で、


「お前たちをな」


 と、告げた。


「おい、秀太」


 幹人がそう言い切る前に生気を吸い取られていく。幹人は逃げようとするが、その時にはもう遅かった、もう足が動かないのだ。


「なんでだよ、魔女に姿を変えられたんじゃないのかよ」

「それは事実でございます、ですが、魔女を討ってほしいというのは嘘なのですよ。だって彼女はもう四五〇年前にもうなくなっているのですから」

「そ、そんな。ならなんでそんな話を俺たちに」

「人というのは使命を与えられた、自分たちは選ばれし人間だと思った瞬間、人間の精気は一番おいしくなるんだ」

「や、やめてくれええええええええ」



 秀太がそう叫ぶ。

「ああ、いうのを忘れていましたね。絶望もまたおいしいんですよ。同じ味だと面白くないでしょう。味変も必要なんですよねえ」

「うわああああああああああああ」


 そう言って二人の少年は命を落とした。


 ここにいる妖怪、彼らは元々幽霊だったのだ。屋敷が燃やされ、そのまま命を落として天国に行くはずだったのだ。しかし、魔女によってこの世に留められ、妖怪としてこの世に半端に存在しているのだ。彼らはもう死んでいるはずだったのだ。

 彼らは魔女に言われたのだ。

「生者の魂を喰らいなさい、そしたらあなたたちは正常な形を取り、天国に行けるから」と。


 魔法をかけた本人の言ったことが本当だと言う証拠はどこにもない。ただ、彼らには妖怪であることは嫌なのだ。正しい姿に戻り、幽霊としてこの世を去りたいのだ。彼らはもう死んでいる、死にながら生きているのはもう耐えきれないのだ。


 だから彼らは精気を集めているのだ。幽霊として、死ぬため。また、生者が羨ましいから、仲間を増やしたいから。



「あれ、幹人? ここは」

「うーん、なんだ、俺は死んだはず」

「ようこそ、妖怪の世界へ」


 そして二人は自分の姿を見ると腐った体を持った、謎の生物になっていた。


 この町にある都市伝説、それは子供が死体もなく消えてしまうというものだった。


 一五〇〇年後


「おいおい本当に入るのかよ、学」

「それしかねえだろ。俺だって入りたくねえよ。でも、入るしかねえだろ」

「わかったよ」


「いらっしゃいませ」


 少年二人に秀太と幹人は告げた。

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