第7話 彼との日常

「おはよう」

「おはよう」


 俺たちはいつものように挨拶をする。俺たちは昔からの友達同士だ。親同士が高校の同級生であり、そういうわけで赤ちゃん時代からの友達である。


 だが、実のところを言うと、俺は少しこいつをうざいと思っている。


 いつも友達という立場を利用して、図々しいお願いをいっぱいしてくるのだ。例えば断っているのに家に頻繁にやってきたり、漫画を無理矢理借りてきたり、数えきれないほどのことをしてきている。それに、こいつはどんでもないあほである、正直精神年齢は九歳ぐらいだろう。それぐらいあほなのだ。


 なぜこんなんなのに友達でいる訳は、そう、親同士が友達だからというのもあるが、少し面白いところもあるからだ、まあ正直ずっと一緒にいるのもつかれるが。


 そんなこんなで十四年生まれてからずっと一緒にいるわけである


 今日も一緒に学校に向かうのだが、そろそろ一人で登校したいという気持ちもある、だがそんなことを言ったらこいつは「俺のどこが悪かったの?」だとか、「嫌わないで」とか言ってくるからこちらが悪者みたいになる、そこがうざい。


 だからずっと一緒にいるのは疲れるのだ。


「なー聞いてーや」


 彼が話しかけてきた、この言い方の時は決まって彼は馬鹿なことを言う。例えばウンコだとか、しょうもない嘘とかそんなものだ。


「ん?なんだ」

「昨日なーゲームでええキャラ当たってん」

「ふーん」


 やはりだ、俺はもちろんこのゲームはやっていないし、興味もない、それに所詮他人のガチャ結果だ。それにそもそもの話、俺はゲームには興味がない。ゲームなどいつサービス終了するのかわからないのだ、なぜそんなものをやる人がいるのかわからん。あんなもの時間の無駄だと思ってしまう。


 こいつは俺の興味のない話を延々とする。正直俺はいつも興味のないような相槌をするのだが、なぜこいつはその話を延々とするのか。


「でなーそのキャラめっちゃ強いねん、最強やねん、スキルで八億でんねん」


 八億出るらしい。強そうだー。


 正直言ってそんな感想しか出てこない、先ほど言ったとおり俺はそのゲームに興味がないのだ。


「でな、そいつ使ったら現環境最難関のクエストを簡単にクリアできるんだー」


 それはゲームとしてどうなのかと思ったが、まあいいだろう、こいつは面白いと思っているのだから。


 正直いってゲームなんて難しいほうが面白いと思っている。新キャラを当てたぐらいで簡単にクリアできるなんて、ゲームとして成立するのかと思うが、それがスマホゲームなのだろう。


 ちなみにだが、俺は据え置きのゲームのほうが好きである、完全に個人の力で戦えるし、金が無くても時間で解決できるからだ。


「なー最強すぎるだろー、羨ましいか?」

「ああ羨ましい、羨ましい」


 正直言って羨ましくはない、前から馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だったのか、いつもどうりのどう考えても興味無さそうな感じを出しているような相槌に気が付かないのか、しかも延々とその話を続けている、


 他人に興味がないのだろうか、それとも空気を読む能力が全くないのだろうか。


「なんか会話のキャッチボールしようぜ、お前相槌しか打ってねえじゃねえか」


 ついにこちらにその話に対して興味がないことに気づいたらしいが、我儘なことにこちらにもう少し会話のキャッチボールをするように要求してきた。


 こっちの方が興味のある話をしてほしいといいたいぐらいだ、だがそのことを指摘するとこいつはおそらく泣くのだ、本当に全くこいつは面倒くさい奴だ。


「ああいいぞ、だが俺には何もわからないんだ、もっと詳しく教えてくれよ」


 俺は優しく諭すように言った、泣かれないように気をつけながら、相手の意見も尊重しながら。


「それはごめんな、お前のこと考えてなかった」


 だが、こいつは意外に素直なのだ。強く言ったらこいつはなくが、優しく言うと理解してくれるのだ。そこが、完全に嫌いきれない理由だ。


「まあでも別にそんな深い話とかじゃないからもういいわ」

「もういいんかい」

「うんもういい」


 こいつは気まぐれだから、すぐに飽きる、それにしても本当にまあいいんかい! と突っ込みたくなるし勢い突っ込んでしまった、だが別に俺も全く興味無いから、まあ良いか。


「そういやもう学校に着くな」


 話していたらいつの間にか時間が経ってしまう、もう学校が見えてきた。しかし、学校の近くに来ると少しだけ憂鬱になる。そりゃそうだ、部活とか置いといて学校に行きたいなんて生徒は稀だ、友達となんて学外でも会えるのだ。


「ああそうだな」

「なんかやだなー」


 あいつも同じ考えのようだ、しかしこいつはいつも学校に行きたがらない。こいつは学校でも寝ているし、いつもだるそうにしている。そんなふうになるなら学校行くなという気持ちになるが、まあこいつの母親からこいつが学校行くように手助けしてくれって言われてるから仕方ない。


「なんでだ?」


 俺も同じ意見だが、一応質問しておく。会話の鍵は質問なのだ。


「めんどくさい、もうこのセリフ言っていい?もう帰りたい」

「早すぎるだろ」


 まあ俺もそうは思うが。


「仕方ないじゃんかよ、学校めんどくさいんだから」

「そうかなら仕方ないな」

「そんな感じに言うなよ」

「どういうことだ」

「もっと反論しろよ」


 うわめんどくさい、反論しなきゃなんねえのか。


「そうかなら家帰っちゃだめだぞ」

「そうそうそんな感じ」


 こいつが良くわからん、今まで十四年間一緒にいるがいまだにこいつの性格がよくわかっていない。何を言ったら怒るのか、何を言ったら笑うのか、理解しているようで理解していない。


「危ない」


「え?」


 轢かれた、車に轢かれた、あいつが車に轢かれた。突然の出来事だ。その光景は忘れる事はないだろう、彼の血が道路にこぼれいてる、俺は救急車を呼ぶべきなのだろうが。


 しかし、体が動かなかった、周りの人が騒いでいるが、その声は聞こえなかった、俺も俺の声が聞こえない。


「ああ、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、あ、あうう」


 その言葉を発した後そのまま俺はその場でへたれてしまった。



 病院


「どうなんですか?あいつの容体は」

「厳しいですね、今手術をしていますが何しろ出血がひどいので、五分五分と言ったらどころです」

「そうですよね」


 俺はあの姿から厳しそうというのはわかっていた、俺に何かできるのならいいが、今の俺にできる事は祈ることしかできない、まさかあの会話の後にこんなことが起こるとは思っていなかった、どうやらあのトラックは二十時間連続で運転してたらしい、トラック運転手はブラックと聞くがまさかそれを目の当たりにするとは思わなかった。


 この三時間は長かった、本当に長かった、こんなことになるなら、うざいなんて思わなかったらよかった。


 こんなこんなこんなこんなこんなこんなこんな不条理な事が起こるのなら。


 あと手術終了まで三時間もある、俺は学校を休んでいるので、もうとりあえず帰っていいと言われたが、そんなことできるわけがない。待つことしかできないのなら待つことをするだけだ。


 待つこと以外何もする気がなかった、お母さんと話したくもなかったし、あいつの親とも話す気がしなかった、同然漫画もゲームも全部やる気がない。


 俺自身なぜ何もしないで三時間待てるのか不思議ではあるが、こんな状況は当然今まで経験したことがない。


 しばらくすると医者の方に呼ばれた、どうやら手術が終わったらしい。


 そして手術室に呼ばれた。


 話によるとどうやら一命はとりとめたらしいそれを聞いた途端気持ちが軽くなった。本当に安心した。


 それと学校に復帰できるのは七週間後だということも同時に聞いた。


 俺はその日から一週間に二、三回はお見舞いに行った、ある時は学校の帰り、ある時は家からそのまま。


 来るたびにあいつは毎回毎回しょうもない話をしてきた。

 だが今の俺にとってはそれはくだらない話などでは決してなかった、あいつが生きていてこうしてしゃべっているという事実をありありと感じていた。


 それが本当にうれしかった、死んでしまっては会話などできない、だが生きている、それだけでいい、実際彼の命は一回俺自身でもあきらめかけていた。しかし、今はこうして話せる。なんて幸せなことではないか。


 七週間後彼が学校に復帰した、まだ傷が完治していないので車いすだがそれでも復帰したことには変わらない。

 彼は「学校行きたくないって言ったら、学校にくるの四週間ぶりになっちゃったね」とこういった。


 俺は「そんな風に言うんじゃなえーよ演技悪い」といったけど本当にうれしかった。

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