第7話 猫友

 私は猫を飼っている。それはもう可愛すぎて目に入れてもいたくないくらいだった。そんな私だが、学校ではまったく楽しくない日々を過ごしている。誰とも話さずに一日が過ぎることなんて日常茶飯事だった。だが、家に猫がいるおかげで毎日幸せだ。猫を抱きしめてにおいをかいで、顔を擦り付ける。人間に対してやっていたとしたらただの変態だが、猫に対してだとセーフという自己判断をしている。

 だけど、そんな幸せは続かない。次の日も学校に行かなくてはならないのだ。あの地獄のような学校へと。その地獄では人の視線を避けながら過ごしている。

「あのインフルエンサーの服良いよね」「えーマジそれな」「あの俳優イケメンじゃね?」「いや、あの人の方が良くね」「今度推しのライブ身に行くんだけど、マジ幸せ」

 女子の会話は本当に分からない。私が本当に女なのかわからなくなるほどだ。何しろ誰も猫の話をしないのだ。そんな俳優より猫の方が一〇〇倍良いぞ! と、言い出したいくらいだ。

 そんなわけで、私は一人、猫の動画をライター(SNS)で見ている。猫がご主人様の帰りを待つ動画や、ご主人様の頬にほっぺすりすりする動画、パソコンに座りご主人様の仕事の邪魔をする動画などなどだ。

 そんな時、「お! 猫の動画見とるやん」と言われた。彼は山本凜人、将棋のプロである海老村与一に憧れ、将棋を始め、この前彼に勝った人だ。

 そんな彼がなぜ私に話しかけてきたのだろう。

「俺も猫飼っとるんやで、今度見せたろか? 言え来てくれたら見せたるで」

 なんか距離近くない? 私一応女なんだけど……。


「逆に俺が君の家一言ってもええで、猫飼っているんならな」


 そして私は結局彼の家に行くことになった。本当に流されて、流されまくったのだ。家の中には可愛らしい猫ちゃんがいた。私の猫とはまた違った可愛さだ。

 可愛さに思わず抱きしめようとしたところ、逃げられてしまった。どうやらお話がられてしあったらしい。悲しい。

「あはは、こいつ俺以外にはなつかないみたいでな。ちょっと待ってな」

 そして山本君は奥から将棋盤を取り出してきた。

「こうやって」山本君は将棋を指し始める。「将棋やると、こいつじっと見るんや、可愛いやろ」

 確かに山本君が言う通り、猫はじっと見ていた。私が抱きかかえても、一切抵抗しない程に。

 そのおかげで猫ちゃんの可愛さにありつけて幸せだ。

「ほれ、そいつ可愛いやろ」

「うん可愛い」

「クラスに猫好きがいて助かったわ。話が合う人がおって」

 それに私が頷くと、

「将棋の対局に負けた人か、こいつに慰められるんや」

 ああ、その光景がしっかりと目に浮かぶ。山本君が猫を愛し、愛される姿が。

「そういや、燐ちゃんの猫も見せてや」

 山本君が私の下の名前を急に言うので、ドキッとする。だがすぐに平常を取り戻し、「私が映ってるので良ければ」と言ってスマホを渡す。

 そして彼はスマホを見ながら「お前の猫もかわいいやん、最高やん」と言いながら一人盛り上がっている。そんな中猫ちゃんは彼が将棋を指すのをやめて、不満そうだった。


「それにしてもお前もキラキラ輝いてるやん。学校の君とは大違いや。学校でもそうしてたらええのに」

「だって、学校では友達になりたいと思える人がいないんだもん。皆インスタとか俳優の話してるし、話し合わないもん、それよりはライターのフォロワーと会話してた方が楽しいもん」

「俺と猫トークするのは?」

「……嫌じゃない」

「だったら俺ら猫トークしよや」

「うん」


 そして翌日から私たちは友達になり、昼休みには猫トークするようになった。彼が対局日で休んだ日には地獄なのだが、それでも学校ではだいぶ楽になった。

 そして、しばらくたった後、彼は竜王戦で海老村与一竜王からタイトルを取ったのだ。その日、私は彼を家に招待した。


「おーこいつがお前のネコか。よう懐くなあ」

「うん。かわいいでしょ? きっと山本君がタイトルを取ったご褒美をあげてるんだよ」

「だったらええなあ」


「そういや」猫を抱えている彼がふと言った。「俺と付き合ってくれへん?」

「え? 何急に」

「俺、友達じゃなくカップルとして君と過ごしてみたくなってん。ええか?」

 急な告白にびっくりした、けど。

「うん! 喜んで」


 そして私たちは抱き合った。

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