第4話 二人きりの大晦日 抱き合いながら新年迎えようよという最高の提案をされました
「今日は大晦日だね」
「ああ」
「なんでそんな不愛想なの?」
俺、
この時間をどう過ごそうか。それが今の俺の課題だ。俺が告白して付き合えた彼女。失望はさせたくない。だが、それが今の俺にとって一番の課題となっている。だからとは言え、このまま不愛想にするのもよくない。早く動かないと。
「ねえ、大晦日だからさあ、大晦日しかできないことをしようよ」
そう提案された。こんな提案をできる彼女のことが正直羨ましい。俺にはそんな気の利いた提案などできない。俺が今こんなにも迷走している時に、この無言状態を打開してくれるなんて。もはや救世主だ。おっと、早く返事を伝えなければな。
「何?」
そんなシンプルな返事をした。
「じゃじゃん。トランプ! カートレースゲーム、オセロ、人生ゲーム。なんでもござれよ! ごろごろなんて大晦日だから楽しいんだよー」
「おお、最高だな!」
彼女の提案にすぐさま乗った。そうだ、俺は忘れていた。普通、こういう時はだらだらと一緒に遊ぶのが楽しいのだ。確かに、去年まで家族とそういうことをやっていたのだ。
今思えば、俺は考えすぎていたのかもしれないな。特別なことをやらなければと。そうだ、これが普通なのだ。宇通に楽しめばいいのだ。このカップルの時間を。
そしてまずはトランプをしながら、年末番組を見ることにした。その番組は二十四時間芸人たちが、様々な仕掛けによって笑いまくるというシンプルな笑い番組だ。
この番組は、六時半から始まっているので、もう二時間経ってはいるが、まあ今からでも楽しめるだろうという判断だ。おそらく今から大富豪で遊びながら二人で大笑いすることになるだろう。
「あはははははは、ねえ、めっちゃ面白いね」
「ああ、そうだな」
実際、大富豪中に唯がそう言ってきた。テレビでは今、芸人が大笑いしているのだ。俺も正直吹き出しそうな気分だ。
「ねえ、笑ってないじゃない。大笑いしようよ」
「まあ、今にも吹き出しそうだけどな」
「笑いたいときに笑わないと人生損するよ! ほら」
と言って唯がこちょこちょをしてきた。
「物理的に笑わせに来てるじゃねえか」
「そうだよ。ほら笑いなさい。あはははははは、って」
「あははは」
「やった私の勝ちだ」
「無理やりだろ」
そしてそんな中また笑いポイントが来た。
「「あはははは」」
今度は二人で笑った。そして、
「はい、七渡しだ」
と、七を三枚出す。これで俺の手札を三枚渡せるのだ。
「え!! やめて?」
「もう終わりだ」
そしてそのまま俺の勝ちになった。
「じゃあ次はカートレースゲームね」
と、数試合大富豪をした後、カートレースが始まった。ちなみに当然だが、テレビでは相変わらずお笑い番組がやっている。つまりこれに耐えうるというのも俺たちの課題だ。笑ってしまっては流石に操作ミスするしな。
「じゃあスタート」
キャラを選び終わった俺たちは、ゲームを開始した。
「行くよー!」
スタートダッシュが成功した彼女は俺より先にどんどんと進んでいく。
「敏夫君、遅ーい」
「うるさいなあ」
そう言って、アイテムを取り、速度アップする。そんな中、テレビの中で、お笑いシーンが出てきた。
「あははは……あ!」
唯のマシンが崖から落ちた。
「ふふ、落ちたな」
「やっちゃった」
そして、彼女の車が救助されるも、俺はもうその先にいた。
「あ! 敏夫君ずるーい!」
「笑わなかった俺の勝ちだ」
そんなことを言って、独走していく。しかし、彼女も懸命についてきている。だが、笑い耐性が高いのは俺だ。逆転を許す可能性なんてない!
「私には秘策があるんだから」
「なんだ?」
「テレビを見ないこと。こうしたら笑わないでしょ」
「お前、自分からハンデ握ってるぞ」
そう、今唯は見る範囲を制限している。ただ、これは逆に言えば画面もみずらくなっているということだ。
「俺の勝ちだな」
と、さらに距離を開けてゆく。だが、その時だった。お笑い番組がピークの時になった。そしてそんな中、流石の俺も耐えきれずに、ゲーム機から目を離してしまった。そしてその時に落ちてしまった。そして、唯の方を見たが、唯は道の真ん中にいたらしく、なんとかたもつ。そしてそのまま逆転されてしまった。
「なんでだよ!!」
「ふふふ。やったー!」
俺の悔しがりをよそに、唯は嬉しそうに、両手を上に上げ、叫んだ。
「お前、悔しがってる人の横でやることじゃないぞ」
「えー、いいじゃない。嬉しいんだからってあははは」
その瞬間やっていた、お笑い番組のシーンによって彼女の笑いが引き出されていた。
「何笑ってんだよ」
「面白くてさあ!!!」
そしてそのままカートレースゲームや他のゲームをやり続け、いつの間にやらもう十一時半だ。
「もうそろそろだね」
「ああ」
流石にこうなってはドキドキしてしまう。もう三十分で今年が終わってしまう。この、唯と出会った記念すべき年が。他にもいろいろのイベントがあった。期末テストの結果で初の九〇点台を取ったこと、ゲームでピックアップ四枚引くという神引きしたこと、野球の好きなチームが優勝したこと、好きなプロ棋士がタイトル取ったこと。
さらに唯との思い出としては、帰り道に恋人つなぎをしたこと、一緒にカラオケに行ったこと、映画を見にいったこと、美術館に行ったこと、クリスマスにイルミネーションを見ながらデートしたこと。たくさんの思い出がある。
正直言って、前半のことは大したことがない。大したことがないと言えば語弊があるが、それでも唯と過ごした時間は他の時間の何倍、いや、何十倍も楽しい。そんな記念の一年が今終わりを告げる。そして唯と共に、新たな唯との一年を迎える。
「楽しみだな」
「楽しみだね」
「「え?」」
見事に言葉が被った。その瞬間俺たち二人ともが、え? と言った。その瞬間また被った。その瞬間俺は笑った、すると、「ふふ」と、唯も笑った。
「俺たち似た者同士だな」
「ね」
そして二人で笑う。もうお笑い番組は見ていないのに、笑いが絶えない環境だ。はあ、「幸せだ」
「だね」
「幸せ過ぎて、もう死ぬのかもしれない」
「死なないでよ!!」
俺の冗談に対して唯はマジになる。それに対して、「冗談だよ」っと言って笑った。
「もう! 冗談でもそんなこと言うのやめてね……私を一人にしないでよ」
「ああ、ごめん」
でも、本当に幸せだ。
「ねえ、そんなこと言ってるうちに、もう一五分前だよ。新年まで。手をつなごうよ」
「だな」
と、唯の差し出す手を取り、恋人つなぎをする。
「このままテレビをつけないで、二人の時間を楽しむのもいいよね」
「それはそう。しょせんテレビなんて、暇つぶしだしな」
「私はそうは思わないけど」
「え?」
一呼吸おいて、
「そう言う流れじゃなかったの?」
と、疑問を投げかけた。俺は、テレビの存在を否定する流れだと思ってたんだが。そう言うテレビによって作られた娯楽よりも二人で作る娯楽の方がいいみたいな感じで。
「私はテレビ好きなの。暇つぶしなんて言わないでよ」
唯はテレビが好きだった。そのために怒ったのだ。これは……正直にあやまらなきゃと思って、「ごめん」と謝った。
「やっぱり敏夫君はいい人だ」
そう、真剣なまなざしで言われた。それを言われてドキッとする。俺は別に自分の過ちを謝罪しただけだ。特別なことはしてない。ただ、褒められるのはうれしい。だから俺も「ありがとう」と告げた。
「どういたしまして……ねえ、頭、肩に乗せていい?」
「ああ、構わないよ」
その言葉を聞いたらすぐに、肩に頭をのせた。ああ、クリスマスの時もやったが、やはりいいな。唯の暖かさが肩を通して俺に伝わってくる。
その感じはドキドキとうれしさで気持ちがおかしくなりそうだ。
「ねえ、抱き合って年越しを向かえない?」
「いいね! それ」
「じゃあ、残り五分になったら抱き合おう?」
「五分も抱き着くつもりか?」
「いいじゃない。別に。抱き着くのは楽しいし」
確かに、抱き着くのは、お互いの体温が感じられるし、何より愛を感じるための儀式でもある。それで新年を迎えるのは、何とも幸せなことと思い、それを踏まえて「まあ」と返した。
そして、残り五分になった。スマホに十一時五十五分と出た瞬間に、彼女が手を開いて、「来て」と言って俺を招いた。そしてすぐさま俺はその中に行って、そのまま俺も唯を抱きしめた。
「なあ、一応カウントダウンだけはセットしておこうぜ」
「なんで?」
「だって、カウントダウンしなきゃいつ信念になったかわからないじゃねえか」
「そうだね! じゃあ持ってくる!」
と、電波時計を唯が持ってきて、それをテレビの前にセットした。
「これでカウントダウンできる」
と、言いながら俺に抱き着き、
「……ね!!!」
と言い切った。
そして、俺を抱きしめながら、「んー幸せ!!」と言ってくるので、顔が赤くなってしまう。
「敏夫君は幸せ?」
「もちろん幸せに決まってるだろ、こんな状況。本当大好きだ。唯」
「私も! 敏夫君!」
二人で力いっぱい抱きしめた。
「いっせー」
「え?」
どういうこと?
「のーで」
仕方ない。
「「大好き」」
「えへへ」
「じゃあ今度はこっちが。せーの!」
「幸せ」
「大好き!」
あ、被らなかった。
「変えるの? 敏夫君」
「だって仕方ないじゃねえか。同じだと詰まらねえだろ」
「あ、そうか。じゃあせーの!」
「「幸せ!!」」
そして、そんなことをしていると、時計が十一時五十九分を指した。
「そろそろだね」
「ああ」
「じゃあ、30! 29! 28! 27! 26! 25! 24!」
「「23! 22! 21! 20!」」
…………淡々とカウントダウンが進んでいく。そして、
「「五! 四!」」
緊張する……あと少しで新年だ!
「「二! 一! 〇!!!!!!!!!!!!」」
「「あけましておめでとう!!!!!!!!!」」
そしていったん手を放して、もう一度力強く抱きしめた。
そして、力強く抱きしめて五分。俺は、そろそろ寝ようかと、彼女に告げた。
「えーまだしゃべろうよ」
「それは寝ころびながらしゃべればいいだろ」
「確かに!」
そして寝室に行き、二人で寝ころんだ。
「お休み」
「え、だからもう少しお話ししようよ。私はさ、良かったと思うんだよね。こうして二人で、二人きりで新年を迎えられて。本当に敏夫さんが実家帰りを拒否したからだよ」
「それはお前もだろ」
実際、大晦日と新年は家族で過ごそうというメールに対して、彼女と過ごしたいという返事を書いたことがあるのだ。まあ、その時はすぐに許されたわけだが。そして、今二人で過ごせている。彼女が言う通り、この選択をして本当によかった。楽しいし。
「大好きだよ」
と言いながら、抱きしめる。
「もう、積極的なんだから」
彼女も、まんざらではない感じだ。
その後、寝るまでイチャイチャしあった。新年始まってからすぐにイチャイチャできるとは、本当に幸せなことだな。と、本当に感じた。
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