第2話 死ね、その言葉の意味

「死ね」といった彼女はこの世の最後みたいな顔をしていた。


 俺はその言葉は単なる暴言の域には無いと思った。

 俺にはその心の傷は誰にも計り知れないと思った。だからこそ、死ねといった理由を俺は知りたかった。


 死ね、その言葉は強い力を持っている。最悪人を自殺に追い込む力だ。


 だが、そう言った彼女は、俺をけなそうとしているようには見えなかった。俺をそんな絶望の底へと追い込もうとしているようには見えなかった。


 俺は彼女のことが気になった。

 俺はとにかく毎日彼女の姿を目で追っていた。

 彼女は俺以外の人には「死ね」なんて言う言葉は言わなかった、言う可能性すらなかった。


 だが、俺はその途中で気がついたことがあった。

 彼女は楽しそうに見えなかったのだ。

 確かに、顔は笑っていた。だが、やはりその顔には悲壮感が見えた。


 俺は彼女の死ねにはやっぱりメッセージ性があると思った。

 今思えばツンデレという表現がある。それの可能性もある。しかしその場合なぜそう言わなければならなかったのか。


「なあ」


 俺は話しかけた。怖かったが、


「鈴音、それでさあ」


 無視し続けるつもりらしい。


「俺は、なんでし」

「あーあー。ちょっと」


 俺は彼女に手をつかまれた。



「そのことは言わないで。私がそんな暴言を吐いたなんて知られたら、クラス内での地位にも響くからさ」

「じゃあ、何でああいったんだ?」

「うるさい! その理由は言わない。ともかく言わないでね。言ったら本当に殺すから」


 ……分からん。何も分からん。


 そして俺は、そのまま放課後になって家に帰った。早速俺はSNSに疑問を呈する投稿をした。


「俺は突然クラスの女子に死ねと言われました。理由は全く分かりません。でも、その後彼女は暗い顔をしてました。これはどういう事なんでしょうか」


 と、


 俺は127人のフォロワーがいる。別多くの人がいる訳ではないが、一人くらい返信を期待してのものだ。


 だが、10分経っても返事は返ってこない。どうしたものかと、思ってた時にようやく一つの返信が付いた。


 それには「もうツンデレですね。いっそ告白してみては」と書いてあった。


 別に俺は彼女のことが嫌いという訳でもない、そう考えると確かにその方法はいいかもしれない。


 ただ、違った場合が怖い、そしたら俺はただの勘違い男になってしまう。


 なぜ、彼女はここまで悲しそうな顔をしていたのか。なぜ、苦痛な表情で俺に「死ね」と言ったのかを聞きたい。


 その旨を書いたところ、「えー絶対好きだと思うんですけどね。だって、そんな苦痛そうな顔で言う理由がそれ以外ありませんもん」と帰ってきた。


 俺はこの人を信用してもいいのだろうか。この人が言っている説を。だが、この人は俺の中でも結構仲のいい人だ。信用しないわけにもいかない。


 はあ、と思って、明日告白しに行くことにした。もう嫌われたとしても俺には痛くもかゆくもないからな。


「なあ、やっぱり昨日の死ねってどういう意味なんだ?」


 俺は良く日彼女に再び聴いた。


「言わないわ」

「もしかしてお前、俺のことが好きだったりするのか?」

「っばっかじゃないの? 死ね死ね死ね」


 そう、乱雑に死ねと赤い顔をしながら言われた。


「なんだよ。話し合いにもならねえな。そんな感情的になるっていう事はそういう事じゃないのか?」

「ならなんで私は死ねって言ったのよ。その言葉の意味すら分からないの? 死ねっていうのは悪口なの」

「言ったんだよ。もうツンデレ以外考えられねえよ!!」


 そして彼女は考え込んだ。いい、いい訳でも考えているのか?


「私が死ねって言ったのは……そうよ!! あなたが気に入らなかったのよ」

「気に入らなかったくらいで死ねは言い過ぎだと思うんだけどな」

「……おとなしく白状してくれよ。死ねって言った理由を」

「っわかったわよ。あなたの言うことが正解! 私は愛情の裏返しで死ねって言いました。これで満足?」

「ああ、満足だ」


 そう言って俺は教室に戻ろうとした。


「ねえ、次はなんでそんなこと言ったんだ? とか聞きなさいよ」

「えーだって、俺の興味は最初からなんで死ねといったかだけだったし」

「……わ、私の告白は受けられないってこと?」

「そうなるかな。だってまともな告白されてないし。それに死ねって言われたもんなあ」


 なんだ、今、かなり弱っているな。昨日まであんなに強気だったのに。


「じゃあ、またhぷかごチャンスをくれない?」

「ああ、いいぞ。その代わり死ねといったことを謝ってくれたらな」

「うぅ。……ごめんなさい」


 彼女は顔を赤くして謝ってくれた。


「じゃあ、……また放課後」

「ああ」


 そして俺は放課後に来るであろう告白イベントを気ままに待つ。……これって告白になるのか? 俺が言っといてなんだが。


 それはともかく、「こっち着て」と彼女に言われたからついて行く。そして連れ出された場所は屋上だった。なるほど、昼休みならともかく放課後に来る生徒などいないから、賢明な判断だ。




 私が死ねと言ったのは単なるテレ隠しではない。


 私は、あの人のことが好きで嫌いだった。

 あの人はイケメンで、いつも寡黙ながら常に周りの出来事に関して我関せずという態度で過ごしているその姿が私には恋しかった。

 だけど、私には逆に少しだけ不満に思っていた。なぜ彼は笑っていないんだろう。なぜ、けだるそうに学校に来ているんだろうと。


 最初はその、我関せずの態度が好きだった。でも、今は……もっと楽しそうにして、もっと、私たちとかかわって欲しい。


 その思いが強くなり、ある日私は彼に話しかけた。最初は当たり障りのないことを話しかけようとした。でも、私はムカついて死ねと言ってしまった。


 言った瞬間はっとなった。私は何を言っているんだろうって。でも、もう後悔したときには遅かった。もう取り返しがつかなかった。彼は不思議な顔をしていつの間にかその場から去って行ってた。


 後から思い返すと私はストレスがたまっていたのかもしれない。私はその前の日にお母さんに思い切り叩かれていたのだ。

 私がそう言ってしまったのはそれのせいかもしれない。

 だが、どんな理由があろうと、言っていいことではない。 私はその後も友達と話していたが、心は全く晴れなかった。


「どうしたの?」

「え? 何でもないよ」


 友達に言われたが、まさか好きな人に死ねと言ってしまったなんて言えない。


「ならいいんだけど」


 彼女も素直に引き下がってくれた。

 でも、問題は全く解決していない。私が彼に死ねと言ってしまったことには何ら変わりがないのだ。

 翌日彼に話しかけられた。


 流石に彼に死ねと言ってしまったと、友達にバレる訳にはいかなかった。

 そこで彼を廊下に連れ出した。


 彼に謝りたいと思いつつ、私は結局彼に対してうるさいって言ってしまった。

 私には勇気がなかったのだ。死ねと言ってしまった理由を告げる勇気が。


 そして家に帰ってからもずっとベッドに顔をうずめながら自分の行動を恥じた。全て全て全て全て私が謎に死ねと言ってしまったことに起因する。

 私は……そんなことを考えながら、私は眠りについた。


 そして翌日。


 私はとぼとぼとした足取りで学校に向かって行った。彼に会わす顔がないと言った気持ちで。

 私は少しだけ歩いた後、ベンチに座った。早めに家を出たから少しくらい休んでも学校には余裕で間に合う。

 学校に行ったら彼に合わなくてはならない。それが、私にとって嫌な現実だ。彼のことは好きな、好きなはずなのに、なぜ?


 そして流石に学校に遅れそうになったから、学校に急いで向かう。


 學校に着くと早速彼が話しかけてきた。彼はやっぱり聞いてきた。しかも、「俺のことが好きだったりする?」というワードをつけて。私はすぐさまギクッとなった。まさに事実だったから。


 でも、私はそれを認めるわけがいかないという気持ちで彼に死ね死ね死ねと、言ってしまった。


 好きな相手に対して死ねを連発する。もう私の情緒は分からなくなってしまった。結局私は彼のことを好きだと認めてしまった。


 謝ることを強要されてしまったが、これに関しては私が悪いのだから仕方ない。


 そして私は放課後、彼を連れて屋上へと向かった。告白をするために。




「私は、貴方のことが好きだから照れ隠しで死ねと言いました。私は君が魅力的な人間だと知っています。だからこそ、何ですべてのことに興味が無さそうな感じだったのか。私にはわかりませんでした。私はそのことが気に入らなくて、貴方に死ねと言ってしまいました。私は告白する前になんでそんな態度で毎日過ごしているのか訊きたいです」


 そう言い切った。結局付き合いたいとかよりもまずそこを訊きたかった。


「俺は、学校には妥協で行っているだけだ。別に学生としていけと言われているから行っているだけだ。本来だったら行きたくない。それに俺は人付き合いなんて諦めている。それだけだ」

「……なら私は、それでも私はあなたと付き合いたいです。あなたに人付き合いさせたいです。どうか付き合ってくれませんか?」

「俺は……無理だ。俺には付き合うという行為が分からない」


 ああ、だめだったか。私の初恋はこんなところで終わるのか。


「ただ、付き合うということを試してみたいという気持ちはある。食わず嫌いはいけないしな」

「じゃあ」

「ああ、試しにだが、付き合ってみるのは有りかもしれない」

「ッやったー!!」


 私は途端にうれしい気持ちになった。これで、私はあの人の彼女になれたんだと。

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