ラブコメ短編集
有原優
第1話 よく忘れ物する友達から日頃のお礼としてデートする権利を貰った話
「ねえ、俊道?」
「なんですか?」
隣席の橋山千佳子が話しかけてくる。
「ノート見せて?」
「また宿題忘れてきたんですか? これで五回目ですよ」
「良いじゃん見せてもらえるんだし」
「俺をなんだと思っているんですか?」
「ノート見せ係」
「俺はあなたの召使いじゃありませんよ」
「ふふ、冗談よ」
そして俺はノートを貸す。とは言っても宿題は数学の問題を答えるだけなのでそこまで難しくはない。
つーか答えが配られてるからそれを写すだけでいい。
「しかし本当ありがとうね俊道」
「それは貸すだけなんで大したことはありませんよ」
「いや、でもいい働きだよ」
「なんかその言い方嫌だなあ、もう貸しませんよ。そんなことを言うんだったら」
「えへへ、ごめーん」
毎度のことだが、調子のいい人だ。元々今年に入るまでは何の接点もなかったのに、ここ二か月で一気に仲良く? なった。
「お詫びに放課後私とデートする権利を上げます」
「そんなに自分に自信があるんですか?」
「うん。自信あったらだめ?」
「そう言うわけじゃありませんけど」
「じゃあ決定ね!」
「ええ?」
相変わらずよくわからない人だ。俺みたいな陰キャと遊んで何のメリットがあるのだろうか。考えても全く分からない。
「嫌なの?」
「全然嫌じゃないけど」
そりゃあ女子とのデート、断るほうが頭がおかしいものだ。
「じゃあ文句なしで決定ね」
「はい!」
そして放課後
「ねえ、準備はいい?」
「はい!」
そして俺たちは出発をした。
「それで今日はどこに行くとかあるんですか?」
「秘密ー」
「教えてくださいよ」
「だめよ、びっくりさせたいの」
と、千佳子は答えようとしない。よほど特別な場所なのか?
「まあでも、良いところなのは間違い無いんだから」
「それなら良いんですけど」
とはいえ場所がわからないというのは少し怖いな。もし楽しくない場所だったらと思うと。千佳子がそんな事をする訳が無いと思うけど。
「着いたよ!」
「もうですか?」
「遠いと思ってた?」
「はい」
そしてその目の前にあったのはホテルだった。それもいわゆるラブホテルと言われるようなホテルだ。
「え? ここですか?」
流石にそんな訳ないよな、付き合ってもいない訳だし。
「ここよ」
そして千佳子はその隣のカフェに入って行った。流石にそうだよな。違うくて良かった。
しかし、カフェか……渋いな。一応仮にもデートという名目だし。
「二名で」
そう千佳子が店員さんに言って店に入って行く。
「さてと、何頼む?」
「え、じゃあカフェオレで」
「私も!」
千佳子は元気で言った。
「あ、ケーキもいる? ここケーキが有名なの」
「たしかにケーキはいるな」
と、千佳子に言われるままにケーキを選ぶ。見た目が見るからに美味しそうだった。
そして店員さんを呼び、メニューを頼む。
「さてと、話そうか」
「そうですね。……て、何を?」
話すようなことあったかな。
「実はね、私が俊道を誘った理由はねー……」
なんだか真剣な面持ちだ。
「俊道にいつもの感謝を伝えたくてね」
「それだけなんですか?」
「うん。だって毎日こき使ってるし」
「まあそうですね」
「否定してよ!!!!」
「だって事実ですし」
否定する理由がない。
もちろんノートの事だけじゃない、教科書を貸したり、体操服を貸したり、その他色々だ。
事あることに忘れ物をし、俺に物を借りる常習犯になっていたのだ。
「それに……いつも私のお願いを聞いてくれるし」
「それは当たり前ですよ。千佳子のお願いですし」
「まあ、そんなこと言って。嬉しいよ! 女たらしさん」
「何ですか、その言い方は」
「まあ、事実だよ。私は実際俊道の女たらしぶりに助けてもらってるし」
「その言い方だと、まるで千佳子が俺のこと好きみたいじゃないですか!?」
「あら、その可能性もあるのよ」
何を言っているんだ、この人は。
「まあ、とりあえずね、私は少なくとも友達としては好きだから」
「思わせぶりはやめてくださいよ」
俺をおちょくっているのだろうか。そんな俺をよそに千佳子はケーキを口にほおばった。
俺と千佳子は本当にここ二ヶ月の付き合いだ。二か月前に二学期が始まった。それに伴って席替えをすることになった。
その時に隣席になったのが千佳子だった。その時に千佳子が話しかけてきたのだ。「これからよろしくね!」と。
それからその言葉通りに、たくさんかかわることになった。だが、それは学内での話だった。学外で会ったのは今日が初めて。
そこで、このような積極的な話をされた。
そんな中、動揺しないわけがない。
そんな俺に千佳子は「どうしたの? 食べないの?」と言っているのだが。
まあ、そんなことを考えていても仕方ないよなということで、俺もケーキを頬ぼる。
「美味しいよね、これ」
「まあ、確かに。でも、千佳子がさっき言った言葉が気になってるんですけどね」
「え?」
「あの、女たらしとか」
「褒めたらだめなの?」
「いや、そう言う訳じゃ」
「じゃあ、良いでしょ」
だめだ、話題を振り返したが、やはり、のらりくらりよけられてしまう。
むむむ、どうしたらいいのだろうか。もしかして本当にただの誉め言葉なのだろうか。
そして、そのまま、カフェを後にした。……千佳子の言葉の真意を捉えることが出来ずに。
ただ、千佳子におちょくられてるだけなのか、それとも俺の勘違いなのか。
「今日は楽しかったね」
「はい」
「そうだ、わかれるまえに一ついい?」
「何ですか?」
「今日のデート楽しかった!」
「それはこっちもですよ」
もちろん楽しかったのは事実だ。だが、一つ思ったことがある。千佳子はなぜ俺にいつもいろいろ頼むのだろうか、それを考えたら気になってしまっていた。
「そう言えば、こっちも一ついいですか?」
「何?」
「なぜ二か月前からこんなに俺とつるむようになったんですか?」
何しろ、一学期千佳子と隣席だった
「そりゃあ、一緒にいて楽しそうだなと思ったから。……それだけだよ」
「じゃあ、勝君についてはどうなるんですか?」
「勝君は私には会わないなと思っただけ」
「じゃあ、なんで俺は合うと思ったんですか?」
「それ、言わなきゃダメ!?」
「だめですね」
ここは俺の好奇心に忠実に、まっすぐと訊こう。引き下がるつもりはない。
「分かった言うよ。……前から気になってたの!! それでいい? それを聞けたら満足!?」
「なんで半ギレなんですか?」
「いいじゃない。……別に」
「なら何がその原因なんですか?」
「もう、引き下がってよ。私嫌いになるよ」
「嫌いにはならないでください」
「急に素直!! ……じゃなくて、もう訊かないでね」
「分かりました」
流石に嫌われるのは嫌だ。そう思って引き下がることを選択した。
そして家に帰った。しかし、モヤモヤが残っている。
千佳子が明確に俺のことを好きだと言わないことに対するモヤモヤだ。
これはどういった感情なのだろうか、俺は千佳子に好きといってもらいたいのか。そう、つまり、千佳子の事が好きなのか?
ただ、俺は千佳子に対して恋愛感情を持っている感じはしない。ただ一緒にいて楽しいだけだ。それを好きだと言ったら変になるかもしれない。別に俺は性欲のために千佳子と一緒にいるわけではないのだ。
確かに、千佳子は我儘で、その行動原理が全く分からない事もある。だけど、あの台詞は説明がつかない。俺の考えすぎなのだろうか。
その後も色々と考えたが、結論が出なかった。ただ一つ思ったことは、明日彼女とどう接すればいいのだろうという不安だけだ。
そして眠りに落ちる。
「ハアハア……ハアハア!」
雷に打たれたような衝撃で目が覚めた。寝起きが悪い。
理由はわかっている。千佳子に関係する夢を見たからだ。
なぜ見たかというと確実に寝る前に考え込んでしまったからだろう。
あんな夢を見てしまったら、もう千佳子に会う事など出来るはずがない。
ただ、休むと言ってもそんな理由で親が休ませてくれるわけもなく……普通に学校に行くことになった。
別にサボっても良かったかもしれないが、親にどやされる可能性が高い。流石にそんなリスクの伴った行動はしたくない。
「おはよう千佳子」
平常を保ちながら話しかける。あまりこういう状態の時に話しかけたりしにくいが、話しかけたりしないのも変なのだ。
「おはよう! 俊道」
いつもと変わらない笑顔で言った。
こう考えると、一人意識してしまっている俺がバカみたいだ。
平常に対しては平常で対応するしかない。
「千佳子」
「何?」
「今日は忘れ物はなさそうですか?」
「ないよ! もちろん」
無いらしい。どうやら今日は大丈夫なようだ。まあ彼女はもちろんと言える立場にはないと思うが。
「あ、でも、すいとう忘れたから、ちょっとちょうだい?」
忘れてるのかい。
「いいですよ」
そう言って、千佳子に渡す。しかし、これは間接キスな気がするが、分かっているのだろうか。
「千佳子」
「何?」
そう言って千佳子はごくごくと飲む。
「……飲み過ぎです」
「えーごめんって」
「ごめんで済むと思っているんですか? 俺のことも考えてください。俺の水なんですから」
「分かった。ごめんねー」
いつも通りの千佳子、やはり千佳子は俺のことを異性だと思っていないという事なのか。
そう思ったら楽だよな。だけど、それが少し寂しくなってくる。
ここはひとつ、言うしかない。
「千佳子は俺のことを異性としてどう思っているんですか?」
と、訊く。これでまともな答えが返ってこなかったら今まで通り、友達と言う感じで接しよう。その思いだ。
「え? 好きだけど」
「え?」
「え?」
どういうことだああああああ。意味が分からないぞおおおおおおおおお。え? 昨日こんな単刀直入で言ったら終わってたってことか? 分からない、分からない、分からないよお!!!!!!!!!!
「なに? どうしたの? そんな顔して」
「いや、しますって、そんな顔」
「え?」
「だって、異性として好きって」
「そんなに驚くこと?」
「え、だって、え?」
「私一言も俊道のこと異性として見れないなんて言った覚えないわよ」
「そうですけど」
いや、確かにそうだけど。そして周りを見るとかなりの視線が集まってし待っている。そんなに目立ってしまったのか? 俺は。まあ、目の前でこんなやり取り、目立って当たり前だけど。
「じゃあ、付き合う?」
じゃあ付き合う? 昨日に続いて、千佳子の思考が分からない。そりゃあ、付き合いたいけど……。
「じゃあ、千佳子は俺と、エッチとかしたいってことですか?」
「え、したいよ。そりゃあ」
「おい!」
「私はさ、昨日のお出かけの時に言うつもりだったの。でも、勇気が出なかった。だからおちょくった言い方ばっかりしてたわけ。今までもそう、忘れ物もわざとよ。今日も間接キスがしたかっただけ」
「そう言われると変態みたいですね」
「ふふ、そうね。でもそんな私で良いなら、付き合ってください」
「はい! よろしくお願いします」
そして教室中から拍手が送られ、変な気分になった。そしてその中で、先生が気まずそうに入ってきて「授業始めてもいいか?」と、訊いてその場は解散となった。
そして放課後、
「それでエッチはいつにする?」
「え!? まじでする気なんですか?」
「ええもちろん。あ、エッチってキスの事!? みたいなありがちな展開でもないよ」
「そうですか……」
まじでこの人ならしそうだな。
「でも……それは俊道の準備が良くなってからで良いよ。こっちももしするとなったら準備必要だし」
「そうですね」
「だから最初は普通に恋人らしいことしよう」
そう言って千佳子が手を差し出してきた。それを俺も握り返す。これからは千佳子とは友達じゃなくて彼女だ。そう思うと少し嬉しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます