第12話同じ場所に帰宅する

聖香と姉の優香は救急治療室の一室で椅子に腰掛けている。

僕は殴られた事により全身に痛みが走っていた。

それを優香に伝えると彼女は痛み止めを処方してくれる。


「骨や脳なんかに異常は無いけど。打ち身や打撲にはなっているはずだから。

湿布と痛み止めは大目に処方しておくわね。

しばらく痛みが止まらないと思うけど…我慢してね。

残酷なことを言って申し訳ないけど…」


「いえ。色々と面倒をお掛けしました」


「そんなこと言わないで。私は医者だもの。職務は全うするわ。

それに妹の友人でしょ?

全く迷惑だなんて思わないわ」


「ありがとうございます…」


僕は優香に感謝の言葉を口にするが…

その様子を見ていた聖香はわざとらしく咳払いをしていた。

それに気付いた僕と優香は少しだけ苦笑の表情を浮かべて…

聖香の方へと視線を向けると僕らは話を一時中断させた。


「お姉ちゃん…なんか…七星くんのこと狙ってる?」


聖香は姉に忠告するような言葉を口にして軽く睨んでいた。


「何を言うかと思えば…そんなわけないでしょ」


「それなら…良いんだけどね…」


「心配?」


「まぁ。お姉ちゃん美人だし…」


「意外と独占欲が激しいのね」


「お姉ちゃん!」


「はいはい。そろそろ帰りなさい。七星くんもお大事にね」


僕らは救急治療室を抜けると聖香と共に帰路に就くのであった。



僕らは同じ帰路についていて…

聖香は僕に付いてきているようだった。

それを少しだけ不思議に思っていると…

彼女はついに僕の家の前までついてきたのである。


「中に入れて…」


心配そうな表情で僕に問いかけてくる聖香に僕はどうしようもなく頷くことしか出来なかった。

僕らは一緒に家の中に入るとそのまま自室へと向かった。

部屋の椅子に腰掛けた聖香は安堵するように嘆息した。

その表情をしっかりと視界に捉えて…


「良かった。命に別状がなくて…」


「そんな物騒なことにはならないですよ。大丈夫」


「そんなことわからないでしょ。何かあったかもしれないじゃない」


「そうですけど…僕は命を狙われるような…そんな存在じゃないです」


「でも拉致されたじゃない…」


「ですけど…理由があったわけで」


「私のせいだよね…」


「違いますよ。先輩にとって僕が生意気に映っただけで…」


「でも…私がいなければ…こんなことにはならなかったでしょ?」


「かもしれませんが…僕は聖香さんと一緒に居たいですよ」


「ホント?この先でも…こんな出来事が待っているかもしれないんだよ?」


「構いませんよ。聖香さんと一緒に居られるのであれば」


「ありがとう…」


僕と聖香はそこで惹き寄せ合うように目が合うとお互いにゴクリとつばを飲み込んでいた。

それが合図だったと言わんばかりに…

僕らは距離を縮めていく。

そのままキスをするために聖香が目を閉じた瞬間…

僕も意を決して彼女の肩を掴んでいた。

いざ…キスをしようとして…


「ただいまー。光?もう帰ってきているの?」


母親の帰宅により僕と聖香の初めてのキスはお預けとなってしまうのであった。



次回。

僕と母親と聖香と…

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