第11話聖香の姉

病院に運ばれる救急車の中で僕は現状を把握できずにいた。

何故、聖香の父親を名乗る警察官が僕を助けに来たのか。

僕が連れ去られた事を何処でどう知ったのか。

完全に意味がわからずに困惑している僕に救急隊の男性は表情を崩して口を開く。


「良かったですね。心強い味方がいて」


きっと救急隊も聖香の父親の立場や存在を理解していることだろう。

多分だが聖香の父親は立場が上の人間なはずだ。

救急隊の人間とも顔見知りなほどの存在。

きっとそういった類の人間なのだ。

そんなことを簡単に想像しながら僕は無事に病院に搬送されたのであった。



救急治療室に運ばれた僕は治療を受けながら診察をしてもらっていた。


「結構酷く殴られたね。素人の顔面を腫れ上がるまで殴るなんて…

酷い奴らだね。

MRI検査をしておこう。

こんなに酷い状態になるまで殴られたんだ。

脳にダメージがなければ良いんだが…」


僕の治療を担当してくれている気が強うそうな女医は憤慨している表情を浮かべていた。

治療が終わった僕を車椅子に乗せた彼女は看護師に任せること無く自らの手で僕を運んでいた。


「何があったの?」


何処か見覚えのある美しい女医は僕を心配するような表情で問いかけてくる。

なんと答えたら良いのか…

僕には未だに答えを口にする勇気が出ずにいた。


「お父さんから大体聞いたけど…」


「お父さん?」


「あれ?聞いてなかった?助けにきた警察官の娘なんだ」


「えっと…じゃあ聖香さんの姉ですか?」


「そうだよ。聖香と仲良くしてくれている子でしょ?」


「はい。僕の方が面倒を見てもらって良くしてもらっている立場なんです」


「そんなこと無いと思うけどね。聖香がメイクしたくないって言い出したのは…

君と出逢ってからでしょ?」


「そうなんですか?僕にはわかりませんが…」


「お父さんが過保護すぎるのよ。

娘が可愛いからって学生までは鬼ギャルのメイクをさせるんだもの…

そんなメイクをしたって聖香の美しさは隠しきれないのに…

君もそう思うでしょ?」


「………ですね。お姉さんも学生の頃は鬼ギャルメイクだったんですか?」


「そうだよ。就職するまでずっと父親の言いつけを守った。

その御蔭で悪い虫はつかなかったよ。

でもその弊害でこの歳になっても男性経験が皆無なんだけどね」


聖香の姉は自虐するように口を開くと軽く嘆息するようにして息を吐いた。

MRIを撮るための部屋に連れて来られた僕は着替えを済ませて機械の中で横たわっていた。

別の担当者がMRIを撮っている間も聖香の姉は部屋を後にしていないようだった。

無事にMRIを撮り終えた僕は再び聖香の姉に連れられて救急治療室へと戻っていく。


「お姉さんのお名前は?」


「優香。二十八歳独身。恋人無し…

そっち方面の話は妹に色々と先を越されそうで…

最近やっと焦りだしたところなんだけど…

まだ仕事で学ぶことも多いし。

このままでも悪くない。

なんて思うようにもなってきたんだ…

って何で私は出逢ったばかりの男子に自分語りをしているんだろうね」


「いえいえ。優香さんは話上手で聞き上手ですね。

話していて気が楽なのは聖香さんのお姉さんだからでしょうか」


「ははっ。嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう」


「いえ…お世辞じゃないですよ」


「そうだ。私とも連絡先交換しておかない?

聖香とのことで困ったことがあったら私が橋渡し役になるから」


「はい。では是非」


僕らが連絡先を交換したところで聖香と彼女らの父親が治療室に入ってくる。


「七星くん!」


聖香は心配そうな表情で僕らの下に駆け寄ってくる。


「聖香。心配ないよ。治療は全部済ませているし後遺症が残るようなこともない」


「良かった…」


聖香は安堵の表情を浮かべて息を吐いている。

その光景を眺めていた彼女の姉と父親も同じ様な表情を浮かべていた。


「それで?何があったんだい?」


聖香の父親は僕に問いかけてくるので事のあらましを言って聞かせた。


「なるほどな。バイト先が一緒だと…

逆恨みの結果…拉致されて痛めつけられたんだね」


「そうだと思います」


「今後彼らは法で裁かれる。彼のバイト先にも連絡を入れる。

捕まったものをそのまま雇っておく経営者は少ないはずだ。

彼はクビになりきっと君にも平穏が訪れるはずだ。

何も心配ない。

だがそれとは別の問題が生じた。

聖香が君に…」


「お父さん!」


聖香は険しい表情を浮かべて父親に食って掛かる勢いで口を開く。

彼女らの父親は困ったような表情を浮かべて頷いた。


「では私は後処理があるのでここで失礼する」


彼女らの父親は治療室を後にして僕と聖香と優香の三人が残された。

不思議な組み合わせの僕らは…



次回。

救急治療室にて彼女ら姉妹と話し合い。

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