第5話気まずい帰り道

三枝リリと鏡来栖に将来の夢を尋ねられた本日。

僕は少しだけ真剣に未来のことを想像していた。


きっとだが僕は一般的な成人男性として一般的な幸せを享受することだろう。

ところで一般的な生活や幸せとは何を指す言葉なのだろうか。


殆どの人と変わりない普通の生活。

では普通とは何なのだろうか。

月並みな言い方になって申し訳ないのだが…

一人ひとりそれぞれが異なった生活を送っているわけで。

幸せについての形も違うわけだ。


自分で想像しておいて即座に否定するのもおかしな話なのだが…

一般的や普通の生活、幸せは存在しないのでは無いだろうか。

僕らはそれぞれが追い求めている幸福のために今日も未来に向けて生きている。

そう信じたい。

きっと僕の未来に待っている生活は明るいものだと…

気休めだろうと今はそう信じたいのであった。





放課後がやってきて僕は鞄を手にする。

本日はアルバイトも休みなためこのまま帰宅する予定だった。

席を立ったところで三枝リリに声を掛けられて足を止めた。


「どうしたの?部活は?」


「ん。今日は休み」


「休み?珍しいね」


「うん。

居残り練で問題が起こって…その生徒たちの指導があるから休みなんだ。

だから…一緒に帰らない?」


「問題?良いよ。一緒に帰ろ」


「ありがとう。

実は帰宅するように注意されても無視をして練習していたらしくて…

注意してきたのが教頭先生だったんだって。

教頭は厳しいで有名でしょ。

生徒に逆らわれたって思った教頭が生徒指導を言い渡したんだ。

面倒だけど従わないと部活動ごと休部になりそうだったらしくてね」


「そうか…部活動に一生懸命なことは良いことだと思うけどな」


「まぁ…限度があったんでしょ。結構夜遅かったらしいし」


「そうなんだ。ってか教頭ってそんな遅くまで学校にいるんだね」


「そうだね。厳しい人だけど凄く生徒思いなんでしょ。

いつも最後まで残っているみたいだよ」


「へぇ。厳しさの裏にはそういう姿が隠れているんだね」


「うん。生徒思いなんだろうね」


「そうだね…」


僕と三枝は世間話をするようにして学校の廊下を歩いていた。

下駄箱で靴を履き替えた僕らはそのまま校門を抜けていく。


「バイトは忙しい?」


校門を抜けた辺りで三枝は再び世間話をするようにして口を開く。


「もう慣れたよ。今では楽しいと思うぐらいだよ」


「へぇ。凄いね。仕事って楽しいんだ?」


「楽しいよ。色んな人と関わるようにもなるし」


「お客さんと?」


「それもあるしバイトの仲間とか」


「あぁー。バイト仲間がいるんだ…仲良いの?」


「仲良い人は一人いるよ」


「そうなんだ…男性?女性?」


「女性だね」


「………」


僕の言葉を耳にした三枝リリは少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべていたが…

あまり気にしないようにして先を進んでいく。


「七星くんって女性ウケ良いよね」


「来栖の方がいいでしょ?サッカー部で一年生からレギュラーだし」


「来栖くんのファンは確かに多いよね。

でも密かに七星くんに憧れている人も居るんだよ?」


「そうなんだ。それは素直に嬉しいね」


「嬉しいんだ…」


三枝リリは再び不機嫌そうな表情を浮かべており…

本日の三枝の情緒不安定加減に少しだけ苦笑してしまう。


「女性に好かれるのは嬉しい?」


「それはそうでしょ。他人に好かれて嫌な思いをする人は居ないんじゃない?」


「そうだけど…」


「今日はどうしたの?」


「何が?」


「なんでもないんだったら…それで良いんだけどね」


「何でもはなくない」


「………」


そこで言葉に詰まった僕は何とも言えない表情を浮かべていたことだろう。

三枝リリは少しだけ不機嫌そうな表情を元に戻して先の提案を僕にしてくる。


「このまま街で遊んでいかない?」


友人からの提案に僕は当然の様に頷く。

そこに偶然なことが重なってします。

件の陽キャグループが僕らの後ろから騒ぎながらやってきていた。


「デートの約束しているぞ」


「いいよなぁ。彼女と別れたばかりだから羨ましいわ」


「ちょっとやめなよー。初々しい二人の邪魔は良くないよ」


「………」


そのグループの中には当然聖香の姿も存在している。

彼女は言葉に詰まっており…

しかしながら厚いメイクをしていても隠せないほどの不機嫌な表情を浮かべていた。

僕も少しだけ気まずい思いを抱いていた。

彼女は一度僕に視線を寄越して陽キャグループとともに先に向かっていった。


「私以外に仲の良い娘が居るんだね」


すぐに届いた聖香からのチャットを目にした僕は困った表情で思わず嘆息していた。


「友人ですよ」


返事をするが聖香は機嫌を損ねたのか既読すらつけなかった。


「じゃあ街に行こうか」


「うんっ♡」


僕は聖香に少しだけ申し訳ない思いを抱きながら…

しかしながら友人と遊ぶだけなのでやましいことなど無く。

僕と三枝リリはそこから揃って電車に乗り込むと街へと向かうのであった。



次回。

三枝リリと街デート…

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