第4話同性の友人 異性の友人

同性の友人。

異性の友人。

少なくとも僕には二人の友人と呼べる同級生が存在している。

幸運なことだと自らでも思う。

友人が居るのと居ないのでは学生生活の充実感は大きく変化することだろう。

そんな当然とも言える話は隅に追いやるとして…。



本日も僕は一人で登校すると教室の自席にてスマホを操作していた。

まだ生徒の多くない静かな教室にて僕は友人を待っていたことだろう。

彼と彼女が教室に顔を出すには朝練を終える必要がある。

二人は僕とは違い部活動に所属している。

同性の友人はサッカー部に。

異性の友人は吹奏楽部に。

二人共将来の目標を明確に持っていて僕とはまるで違う人種に思える。

しかしながら何の因果か僕らは友人となったのである。




「七星は飲食店でバイトしているって聞いたことあるけど。

レジとかもやるん?」


当時。

一年生の文化祭で出し物が決定した時のことだった。

僕らのクラスは焼き鳥を売ることになっていた。

焼いたり詰めたりする係はすぐに決まったのだが…

会計や客の対応をする係が中々決まらないでいたのだ。

そんな時…

サッカー部で一年生ながらレギュラーを獲得していた鏡来栖かがみくるすから声を掛けられたのだ。


「あぁ。うん。レジや会計もするよ」


「そうだよな。じゃあ俺も手伝うから七星も会計一緒にやってくれないか?」


「うん。分かった」


僕と鏡が会計係に立候補すると担任教師は少しだけ苦笑しながら口を開いていく。


「別に信頼していないわけじゃないんだがな…

女子も入れて三人で働いてほしい。

会計は金銭のやり取りが発生するわけだ。

ふざけられては困るし真面目にやるためにも全員が全員を見張るような形で働いてほしいんだ。

もしも何かがあると金銭の発生する出し物が来年からできなくなったりする。

そうなると困るのは生徒全員だ。

だから同性だけではなく異性のグループになってほしい。

女子で立候補する人はいるか?」


担任教師の言いたいことも最もだった。

同性だけで悪ノリのようなことが起これば何があるか分かったものではない。

悪ふざけをするつもりはないし鏡とそこまでの関係性を築けているわけでもない。

信頼されていないわけではない。

それも理解した上で教師の言いたいことがしっかりと理解できたのである。


「立候補します」


静かな声だったが確かに教室中に届く声を発した女子生徒。

吹奏楽部の三枝さえぐさリリだった。

大人しそうな見た目をしているが意見をしっかりと言う女子生徒という印象を持っている。


「そうか。良かった。他に居ないか?

居ないなら三枝で決定するが」


担任教師の言葉に他の女子生徒は頷いて返事をしていた。

そして僕と鏡と三枝の三人は同じ係となり友人へとなっていったのだ。



「売上の管理は鏡くんがやってほしい」


係が決まって僕ら三人は集まって話し合いを行っていた。

最初に提案したのは三枝だった。

僕も同調するようにそれに頷くと鏡は仕方なさそうな表情で頷く。


「分かった。任せてほしい。けど…どうして俺?」


「鏡くんはサッカー部で一年生からレギュラーでしょ?

何か問題を起こしたら試合に出られなくなる。

そんなリスクを背負うとは思えない。

だからこの中では一番信頼できる。

売上が消えたら困るのはクラスメートや学校側の教師だから。

絶対に何も起こさないって信頼できるのは鏡くんだよ」


「そうか。ありがとう。でもその言い方だと七星は信頼していないみたいだぞ」


「そんなことは…ごめんなさい。

七星くん…そんなつもりじゃないのよ」


「分かっているよ。気にしていないから気にしないで」


「ありがとう…七星くんは私と一緒にレジを担当してほしいの…」


「うん。もちろん良いよ。三枝さんも経験者なの?」


「いいえ…だから…七星くんに教えてほしくて…だめ?」


「もちろん教えられることは教えるよ。任せて」


「うん…ありがとう…」


三枝は何故か少しだけ照れくさそうな表情を浮かべて感謝の言葉を口にしていた。

僕はそれを少しだけ不思議に思ったが何なりと受け入れたのであった。


そうして僕ら三人は文化祭期間中に同じ仕事に就いたことにより仲を深めていったのだ。

詳しい話はまたいずれ…何処かで。




現在に戻ってきて。


「おはよう。三枝はまだ来ていないのか?」


先に教室に現れたのは鏡来栖の方だった。


「おはよう。まだだよ。今日は早いんだな」


「あぁ。朝から監督の気まぐれが発生してな。

今日は早く上がることになったんだ」


「そうか。部活動も大変だな」


「まぁな。でも働いている七星の方が大変だろ?」


「比べるようなことじゃないと思うよ。

どっちも大変でしょ」


「そうだな…」


「その後スカウトは来ているの?」


「来ているみたいだな。何度か声を掛けられているよ」


「凄いな。本格的な話もしているの?」


「いいや。それはまだだよ。先輩を見に来ているみたいでな。

時間に余裕があるときに話しかけられて人間性を探られている気分だよ」


「そう。でも凄いじゃん。まだ二年生なのに」


「まぁ…そろそろしっかりとした話をしてほしいよ。

かなり焦りのような感覚を覚えている」


「焦る必要なんてないだろ?まだ公式戦は沢山残っている。

勝ち進んで活躍したらもっと注目される」


「だと嬉しいよ。七星は明確な夢や目標が決まったか?」


「いや…僕は…」


その続きの言葉を口にしようとしたところで三枝が教室に入ってくる。

タイミングが良いのか悪いのか…

僕らにはわからなかったが話は一度中断される。


「おはよう。二人共何の話をしていたの?」


「おはよう。何でも無い世間話だよ」


鏡が先に口を開くと三枝は僕の表情を覗き込んで伺うようにして口を開く。


「教えて♡?」


少し甘えるような声音で僕に迫ってくる三枝の両肩を抑えると苦笑して口を開いていく。


「いやいや。本当に世間話だよ。これと言って大切な話をしていたわけじゃない」


「それでも…知りたい…」


「じゃあ…」


そうして僕は三枝に先程までの話を言って聞かせたのである。


「そう。鏡くんの夢は叶いそうだね」


「プロになるだけで夢が終わるわけじゃない。

そこは通過点だよ。

第一目標って言えばいいかも。

そこに辿り着いたら…また新たな夢を見つけていくよ」


「うん。頑張って」


「ありがとう」


三枝と鏡は同じ様な世間話を終えて僕に向き直る。


「それで…七星くんは何か見つけた?」


三枝にも同じ質問をされて僕は口を開きかける。

そこで都合よく予鈴が鳴って僕らは話を中断せざるを得ない。


「じゃあまた後で」


僕らは自席に戻り担任教師が来るのを待っていた。

本日も最初から少しだけ心にわだかまりのような感情を携えたまま…

僕の学生生活はここから幕を開けるのであった。



次回。

三枝リリと…?

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