第3話バイト終わりに夕食を

自転車を押しながら僕らは帰路に就いていた。


「また私のせいで迷惑かけたね…」


聖香はバイト終わりの帰り道で僕に申し訳無さそうな表情を浮かべて謝罪した。


「いやいや。何も迷惑なんかじゃないですよ」


「でも…」


「さっきのは勝手に先輩が絡んできただけですし…

これからも聖香さんと仲良くさせてほしいです…

毎回あの様なことがあろうとも…」


「どうして…?」


「どうしてって…聖香さんと話したり接している時のほうが楽しいですし…

あの先輩と一緒にいても楽しくないですから…

だから聖香さんと居られることで嫌な思いをしようとも…

別に構わないですよ」


「そう…七星くんって…少し変わってる?」


「そんなこと無いです。先輩ほどの人と仲良く出来るなら…

男子は他のどんな事を投げ出しても良いって思いますよ」


「そうなの?七星くんだからそう思ってくれたわけじゃなくて?」


「僕だからってわけではないと思いますよ。

先輩は自分の容姿が優れていることをもっと認識したほうが良いですよ」


「容姿が優れているって…そんなことよく直接言えるね…

恥ずかしくないの?」


「全然ですよ。事実を口にしているだけですから」


「もう…こっちが恥ずかしいよ…」


彼女は恥ずかしそうに顔を両手で隠すと先を歩いていく。

僕も目的地を決めずに彼女の隣を歩いていた。

現在時刻は十八時を過ぎた辺りだった。

本日のシフトは朝十時から夕方の十八時まで。

このまま帰宅するには暇な時間が多すぎる。

もう少し聖香と一緒に居たい…

などと淡い期待をしていた僕だった。


「何か食べに行かない?」


偶然だが僕らの想いは通じ合ったのか聖香から夕食の誘いを告げられる。


「もちろんです。何処に行きましょうか?」


「駅前の鉄板焼にでも行こうよ」


「はい」


そうして僕らは揃って鉄板焼屋に向かうのであった。



駅前の食べ放題がある鉄板焼屋にて僕と聖香は二人でテーブルを囲んでいた。

対面の席に腰掛けて僕は注文したお好み焼きを焼いていた。

他にも単品で注文した食材を焼いては聖香の皿に運んでいく。


「焼いてくれてありがとうね。上手じゃん」


「ですか。良く友人と来ていたので」


「そうなんだ。男子と?」


「ん?もちろんですよ」


「そっか…それなら安心…」


「どういうことですか?」


「いいや…私以外の女子と仲が良かったら…何でも無い…」


聖香はそれだけ言い残すと僕が焼いた食材を口にしていく。

僕もそれ以上突っ込んだ質問をすることもなく…

僕らはゆっくりとした食事の時間を過ごしていた。


「学校はどう?私達の存在ってやっぱり浮いているでしょ?」


「浮いているっていうか…少し羨ましくはありますね」


「羨ましい?どうして?」


「んんー。

僕も先輩たちのグループみたいに自由に生きてみたいって憧れはありますよ」


「自由か…確かに自由ではあるね」


「僕も思うがままに生きられたらって夢想はしますから」


「私達にも色々としがらみはあるよ…って七星くんは知っているよね」


「ですね。聖香さんから聞きましたし…それでも羨ましく映るんですよ」


「そっか…じゃあ私達のグループと仲良くする?」


不意に投げかけられた甘美にも思える誘いの言葉だったが…

僕は少しの逡巡の末に首を左右に振った。


「やめておきます。僕が仲良くしたいのは聖香さんだけですから…

バイトの時に話せたらそれで良いんです」


「バイトの時以外の私とは仲良くしたくない?」


「そんなことは無いですよ。聖香さんの本質を知っているので」


「そっか…なんだか今日は沢山褒めてくれるんだね」


「そうでしょうか…」


「ふふっ。ありがとうねっ♡?」


美しく微笑んだ聖香の表情に完全にやられながら…

僕らは恙無く夕食を楽しむとそれぞれの帰路に就くのであった。



次回。

学校にて初登場の友人と…。

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