第2話 義母と義妹

「ほらっ、また姿勢がズレてるわよっ。」


 怒号を発しているのは、整った身なりの20代後半から30代前半に見える女性。


 今叱責された少女の義母である。


 

「脱ぎなさい。ほらっ、着ているもの全部脱ぎなさいっ。」


 叱責された少女は着ている衣服を全て、渋々脱ぎ捨てた。


 それから先ほどと同じように、頭に乗せた小さなお盆には並々と容器に注がれた熱湯が今か今かと解放されるのを待っていた。


「相変わらず貧相な身体だ事。」


 娘とは大違いね、と言い捨てる。


 少女には義妹が存在する。この目の前の義母の実の娘である。


 少女の母が亡くなった後、直ぐに父の元に後妻としてやってきたのが義母である。


 そして義母の子は、父の実の娘でもあった。


 つまりは、隠れて不貞をし、養っていたという事である。


 そして少女の母が鬼籍に入ると、直ぐにその後釜に落ち着いたというわけだった。


 


「何が熱いよ。それはあなたの歩行姿勢が悪いからでしょうっ。背中をこちらへ向けなさいっ。」


 少女が背中を見せると、父からつけられた傷跡と、入浴と銘打ってメイドからたわしで磨かれた傷跡が、他にも様々な傷跡が残されていた。



「反省しなさいっ。」


 義母はそんな傷だらけの背中に、文字通り鞭打った。


 一つまた一つと傷が増えていく。


 広がった傷からは血が湧き出て、周辺の床へと飛び散った。








「お姉さま。椅子がいう事聞いてくれませんの。」


 義妹が座っているのは、使用人の一人である男が四つん這いとなっているもの。


 所謂人間椅子である。


 普通であればいくら使用人であってもそこまでする事はない。


 わがままが過ぎるというのはあるが、この椅子になっている使用人が単に被虐体質だからであろう。


 顔がどことなく小さな少女に乗ってもらい、恍惚しているようにも見て取れた。


 いかな少女の肉体であっても、長時間四つん這いで背中に乗られては疲労もしてくるもの。


 疲労により身体を動かしたり、体勢を整えようとしたりすれば、主人には伝わってしまうというものである。


 そして先ほどのセリフに繋がるのであった。


「さっきから身体を捩らせるものだから、私の体勢が不安定になるの。お姉さま、このダメ椅子と変わってくださらない?」


 少女は断れば、後にどうなるか知っている。


 父に、母に更なる折檻を受ける事を知っているのだ。


 義妹のいう事くらい、お姉ちゃんなんだからいう事聞いてあげなさいと。


 そういう時だけ少女を姉として子として扱う。


「……」




 そして義妹は傷だらけの少女の背中に腰掛ける。


 傷だらけの背中であるため、当然耐えられるはずもなく、5分と持たずに義妹は椅子から落ちる。


「もう、お姉さまのくせにっ、なんで可愛い妹のいう事がきけないのっ。このっこのっ。」


 義妹は傷だらけの背中を容赦なく踏みつける。



「もうっ、お姉さまの汚らしい血が足に着いちゃったじゃないっ。」


 人間椅子を躾ける用の乗馬鞭を持ち出し、少女の背中に追加攻撃をする。


 その様子を見て、先ほどまで椅子となっていた使用人が、羨ましそうな目で少女を見ていた。





「全く、お嬢様を乗せてもらっているというのに、あれはなんですか。それにおみ足で踏んでもらって、更には鞭の寵愛まで……全く、羨ましいっ。じゃないけしからん事ですっ。」


 義妹が去った後の部屋にはうつ伏せに寝転ぶ少女、その少女に罵声を浴びせる使用人。



「いつまでそこにいつもりですか?さっさと立ち上がってご自分の部屋に戻ったらどうです?」


 そういうと使用人は気付けとばかりに背中を「バンッ」と強く叩いた。






 掃除も行き届いていない自分の部屋にたどり着くと、飛びつくと埃の舞う堅いベッドへうつ伏せに倒れこんだ。


(結局ここには私を痛めつける人達しかいない。お母さまが亡くなり、唯一の味方だった乳母が療養のために実家に戻ってからは……味方が誰もいない。)



 このような日常が、少女の年齢が5歳の時から始まり、現在12歳まで続いた。




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