魔眼と聖眼持ちのオッドアイの少女は迫害されて生きてきた。真っ当に育つはずもなく、復讐は徹底的に行います。
琉水 魅希
第1話 迫害された少女
「バケモノめっ!気色悪いっ。その眼を見せるなっ!」
口髭を生やした40代くらいの筋肉質の男は、突き倒されたのか四つん這いになり、身体をプルプルと震わせている小さな少女に向かって叫んだ。
それは盗みを働いた乞食の子供を叱責するかのような、射殺さんばかりの怒号であり、少女が震えてしまうのも無理はないだろう。
少女の長い髪は整えておらず、桶に入れた湯や水でしか身体を拭くことの出来ない平民と呼ばれる身分の一般よりも酷い有様であった。
風呂は貴族階級であれば屋敷にしろ城にしろ、ないという事はないが、平民家庭に風呂があるのは、一部金持ちの家にあるくらいだった。
平民一般家庭は身体を拭き、頭は井戸水などで頭から被るくらいしか出来ない。
浮浪者や孤児などが身綺麗に出来る環境は皆無である。
怒号を飛ばした男の前に四つん這いになっている少女は、そんな浮浪者や孤児に近しい見た目をしていた。
着ている衣服にしても、ところどころ破れており、補修したような箇所は見受けられるものの、毎日洗濯をしているようには見えなかった。
少女は震える身体で髭の男を見上げると、男は口元を震わせえていた。
人は本気で怒りを表す時には唇が震える。髭の男は心底目の前の少女に対して怒りの感情を向けているという事だった。
「お、お父様……」
少女が消え入りそうな声で絞り出した声は、男とは別の意味で唇を震わせていた。
こちらは、怒りとは真逆、恐怖から唇を震わせていた。
「えぇいっ!私を父と呼ぶなっ穢らわしいっ!その色の異なる目で私を、私達家族を見るでないわっ!」
男は手に持っていた杖で少女の背中を上から叩きつけた。
手加減をしているのかは不明であるが、怒りに感情を任せている人間が余計な事に事に気が回るはずもない。
元々ボロボロだった衣服はさらに裂けていく。
ところどころに血が混じり、赤く変色していく。
数分叩いた後、叩き疲れたのか、本人的には躾終わったのかその場を後にした。
泣き崩れる少女を残して。
少女は部屋に戻るが、然程時間を空けずに迎えにきたメイドによってどこかへ連れ去られていった。
釣りあがった目が指すように、このメイドは先ほどの男に忠実であり、この少女に対して優しくはない人物である。
その証拠に、少女を全裸にさせると徐に桶に一杯になったお湯を無造作に背中に投げかけた。
「ひぃぃっ、い、いたぃ……」
杖で殴打され、打撲と裂傷のある背中に、冷や水でなくとも湯をかける行為は拷問に近い。
傷口に塩を塗るではないが、先ほどついたばかりの裂傷に対し身体を洗う柔らかいタオルではなく、食器の頑固な汚れを落とすための先端の尖ったたわしのようなもので少女の身体を磨いていく。
「うぐっ、ああううぅ。」
歯を食いしばり、懸命に痛みに耐える少女。
これでも最初の頃は泣き叫んで手が付けられない程暴れたものだが、毎度の事でなれたのか少女の反応は薄いものへとなっていた。
それでも少女が入浴出来るのは、こうした折檻の時だけなので、身体を綺麗にする数少ない機会でもある。
傷だらけのまま少女は湯船に首まで浸けさせられ、頭から何度も湯をかけられる。
少女はこの隙に髪の毛に指をいれ、汚れを落としていく。
全てが終わり、元の汚い衣服へ着替えた少女は自室へと戻った。
窓は割れていないが、誇りに塗れた不衛生な部屋。
張った蜘蛛の巣もそのままで、数年は手付かずだという事が窺い知れる。
幸いにもベッドはあるものの、その上に敷かれている布団は最後に洗濯したのがいつなのかわからない程度にはヘタレていた。
「バケモノね……」
「家族に、実の娘にこんな事する父や母や姉妹、メイド達の方が余程バケモノだと思うけど。」
うつ伏せになって先程の打撲や裂傷を庇っているのか、枕に顔を埋めて言葉を漏らした。
少女は知りようもない、また少女以外の者も知りようがない。
少女の左右で違う色の瞳達が何なのかを。
少女の瞳が映し出す世界と、少女以外の瞳が映し出す世界が異なっている事を。
少女の右の紫の目は魔眼、対象に関しての情報がいくつかの文字や数字となって映し出される。
少女の左の水色の目は聖眼、悪い箇所等が色やモヤのようなもので映し出され、その状態を変動・変化させることができる。
魔眼とは物語の世界で良く使われている、鑑定や看破のような能力。
聖眼とは状態の読み込みと書き込み、上書きして保存する能力。
目に見える見えない問わず、傷等を特定し、癒し治すということは、状態を読み込み書き換えそして上書きして保存する……という事である。
かつて異世界よりやってきた者が言うには、そんな聖眼の事を「CD-Rみたいだな。」と呼んでいた事を、現代の人は誰も知らない。
そしてその時代では聖眼持ちの事を、聖人や聖女と呼んでいた事を。
そして魔眼持ちは、重要な役職に就いたり、高位冒険者や一国の将軍等として重宝されていた事を。
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