第61話 オリエッタ商会1
部屋はリビングを中心に寝室が二つあるようで、そのうちの一つを使わせてもらっている。
「ねぇサイラ、リュディガー達って本当にいるよね?」
なにせ三日間意識不明で四日目も面会謝絶だったので誰とも話せていない。アレって幻覚だったんじゃ無いでしょうね?
「大丈夫です、直ぐにいらっしゃいますよ。クスッ」
なんで笑ってるの?
「ずっとこの部屋のリビングで待ってらしたのですが、タイミング悪く呼び出されたようで……」
ミラも笑顔で説明してくれていたが途中で遠くからドタドタと走る音が近づいて来て、バンッと勢いよくドアが開く音がした。
「エメラルド!どこだ!?」
隣のリビングから焦ってるリュディガーの声。本当に幻覚じゃなかったんだ。ってかさっきまで居たんだからわかってるよね。
「リュディガー、ここよ」
直ぐにバタンッと寝室のドアが開かれ近づいて来る彼の前にサイラとミラが立ちはだかった。
「お約束したはずです、リュディガーさん。お静かにお願いします、と」
「エメラルド様はまだ回復途中で安静が必要なんです」
ビクッと立ち止まり、一旦目を閉じ大きく呼吸する。
「悪かった。静かに話す」
ひと呼吸置いてサイラ達が場所をあけるとリュディガーがベッドの横に来てくれた。
「エメラルド!」
直ぐに手を取り握りしめてくる。
「リュディガー、静かにね」
「わかってる、わかってるけど……心配させ過ぎだぞ」
「ごめん、ありがとう」
サイラ達は大丈夫そうだとわかると部屋出て、入れ替わるようにピッポがやって来た。
「ピッポ」
「お前は本当にやらかす奴だな。流石にもう駄目かと思ったぜ」
「ごめん、心配かけたよね」
リュディガーの暖かい手やピッポのくしゃくしゃの笑顔を見て本当に助かったんだと実感出来た。三人で涙ぐみながら笑った。
「それにしてもさ、どうやって見つけてくれたの?っていうか、サイラとミラ、それにニコラスも居るってことはあの小島に行ったの?アレ?カイは?」
落ち着いてくると色々と疑問が浮かぶ。しかもこの船。これってなんなの?
「まぁ順を追って話すとだな……」
リュディガーは私について行けなかった事がどうにも収まらなかったらしい。
見送ってくれる時も相当怒ってたもんね。
その気持はモッテン船長も同じだった様で、そこから汎ゆる手を使い私を追いかける方法を探った。回収船は勿論私が乗った高速艇の後を追いかけていたが、絶対に追いつけない事はわかっている。
だから他に速い船が近くを航行していないか片っ端から連絡を取っていったそうだ。
「それで応答があったのがこの船だ」
救出された時は朦朧としていた為よく見ていなかったが、意識がハッキリしてからわかった医療設備や医者の腕の良さ、この部屋のレベルを見ても上位貴族の持ち物かもと思った。
でも二人やサイラとミラの様子を見てもそんなに緊張感が無いので恐らく裕福な平民の船だろう。
「モッテン船長の知り合いだったの?」
「あぁ、鉄とキューブの取引相手だ」
この船の持ち主はエルドレッド国有数の商家、オリエッタ商会だった。国内で一、二を争う巨大な商会で鉄を回収船から買い上げる事は勿論、国からの許可を得てキューブの取り引きも出来る言わば王家御用達の商会だ。キューブの価格は人々の生活に直結している為、公平取引を厳守出来る商会にしか許されていない。
顔は凶悪だがその辺はキッチリしているモッテン船長の取り引き相手なら信用しても良いだろう。
「でも私って何処を漂ってたの?貨物船のルートからも外れた場所だと思ってたんだけど、よく見つけられたわね」
「そこが本当に大変だったんだ」
思い出したくも無いって顔で二人が大きくため息をついた。
「船長!まだ速い船は見つからないのか?」
俺はイライラしながら今日三度目の船長室へ入って行った。
「うるせぇ黙ってろ小僧!今やってるに決まってるだろ!」
俺よりもイライラしてるモッテン船長が唸っている。
昨日の午前に出発したエメラルドとカイが乗った高速艇に追いつき、エルドレッド国の港からの陸路を王都へ向かう二人に何が何でも合流する為にどうしても今日中には乗せてもらえる船を見つけなければならない。
メルチェーデ号もエルドレッド国を目指しているが国の高速艇とこの船じゃあまりにも速さが違う。あれと同等、せめて少し落ちるくらいの高速艇でなければ追いつけないので意味が無いから探す船は限られている。
近くを航行中で、エルドレッド国へ向かえて、かつ高速で進める。となれば裕福な商会の船になるだろう。つまり高額の支払いは必須。だがぶっちゃけ金は多少持っているから払えるはずだ。
俺は幼い頃にオジジに引き取られ回収船に乗った。働く意味もわからないままに特級遺物を発掘した。恐らく価値は第一区分。恐らく、と言うのには理由がありこの特級遺物を国へ引き渡していないからだ。
俺が発掘した特級遺物は箱型と呼ばれる見た目は第一区分ではよくある形だった。開くことができ中に様々な魔導具やそれに付随する物が見つかる事がある。
この箱から出てきたのはエメラルドだ。
彼女が箱に入っていた理由も方法もわからないがこれを掘り当て一緒に検分した俺とオジジ、モッテン船長とマルコはこの事を秘匿することにした。
エメラルドの事を抜きにしてもこの箱型の特級遺物は希少で、その後のオジジの研究から船を護るのに有効な物であると判明しいまや無くてはならない物となっている。そしてその利用料が俺に入って来る。
いずれ船を降りる時が来るかもしれない。金はその時オジジとエメラルドが不自由なく暮らせる様に貯めている。
普段は目立たない様にそれなりの暮らしをして来た。エメラルドは日を追うごとに美しくなっている。ただでさえ目立つ彼女の価値をこれ以上上げるわけにはいかないからな。
でも今はそんな事を言っている場合では無い。
「まだか船長!」
今日、四度目の船長室のドアを開くと凶悪な顔を向けられた。
「うるせぇって言ってんだろ!見つかったわ!」
「どこの船だ何処にいる!?」
間に合ったかと話に勢い良く食いつくと部屋にいたピッポに笑顔で宥められる。
「ちょっと落ち着け、どう転んでも出発は明日の昼頃だ」
「ギリギリだな。で、どこの船だ?」
「オリエッタ商会だ」
「………………そ、そうか。オリエッタか」
ぷはっとピッポが吹き出す。コイツ俺の反応をわかっていたな。
「良かったじゃないか、あそこの高速艇なら下手すりゃ国の高速艇より最新型だろ」
「あぁ、それで誰が乗ってる?番頭のベニートか?それとも番頭長のガストーネか?」
僅かな希望を胸に船長に尋ねるが嫌な予感がする。
「ベルナデッタだ。勿論ベニートもいるがな」
希望は砕けピッポがコチラに背を向け肩を揺らしている。クソッ!こんな非常事態でよりによってベルナデッタか。いや俺がしっかりしていれば大丈夫だ、問題ない、はず。
オリエッタ商会会頭には子どもが三人いる。長男で後を継ぐ予定のガストーネ。次男で兄の補佐をしているベニート。そして会頭並びに兄二人が溺愛するひとり娘ベルナデッタだ。
ベルナデッタとは取り引きのため、エルドレッド国の港にモッテン船長の指示で向かった時に知り合った。
何故かそれ以来俺を気に入り取り引きの時には必ず同席して、その後食事や買い物に付き合わされる。
出来ればベルナデッタに関わりたく無かったが背に腹は代えられない。今はエメラルドに追い付くことが優先事項だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます