第59話 夢の中?1

 いま何日目だっけ?

 

 また日が昇りまだ生きている。もう起き上がる気力も無くただ空を見ていた。

 

 そういえばそろそろ回収場の入れ替え時期だな。早く行って良い場所取らなきゃな。大物遺物を発掘してオジジをビックリさせてやるんだ。そしたらピッポも驚いて、リュディガーもくしゃくしゃに頭を撫でてくるに違いない。もう〜、いつも子ども扱いは止めてって言ってるのに止めないんだから。私はもう成人してるんだからね!

 今日はキューブを幾つか見つけたらモッテン船長が導入した新商品のスイーツってやつを買ってみようかな。確か……シュークリーム!あれってすっごく美味しかったぁ。オジジにもピッポにも食べさせてやらなきゃ。リュディガーは何も言わないけどきっと陸に行った時に食べてるんじゃないかな?もしかして例のお嬢様と……お嬢様の部屋で!?やだムカついて来た。絶対に問い詰めてやる!それからぶっ飛ばしてやるんだから!

 その為にもキューブを発掘しなきゃ……

 

 

 夢から覚めたような気持ちで目を開いた。救命具内は薄暗く夜になったんだとわかる。体を丸めて眠っていて胸元で両手を握りしめていたが、違和感を感じ開くと小さなキューブがあった。

 

 なんでキューブ?夢から持ってきちゃったんだろうか?

 

 理由がわからず人差し指と親指で挟んで持つと薄明かりに照らして見た。それはまともなキューブでは無く欠片を組み合わせて作った粗悪な物だった。私の頭元の横に破れた救命具があったので何を思ったか無意識にそこから取り出してしまったようだ。

 

「綺麗だな」

 

 弱い月の光に照らされたそれを眺めているうちに何気なくポイッと口に入れた。カロッと飴玉のように口の中で転がす。美味しい気がした。


 そのまままたウトウトして眠りに落ちそうになった時、うっかりキューブをガキッと噛んでしまった。と、同時に何かが頭の中で何かが弾けて洪水の様に光が溢れてきた。

 

 うわっ、なんだコレ!?

 

 高い塔のようなものが幾つも並ぶ街並み。凄い速さで動く鉄の箱。空に浮かぶ巨大な鳥のような物体。沢山の人、人、人。眩い灯りがそこらじゅうを照らし、騒がしい音が煩すぎる。

 

「エメラルド」

 

 優しく呼ばれ目を向けた。そこには柔らかい微笑みを湛えた美しい女性がいる。光を含んみうっとりするような綺麗な金髪に深い翠の瞳。

 

「大丈夫よ、ビックリしたの?ママがついてるわ」

 

 そう言ってツンツンと頬をに触れる。

 

「ふ、ふぇ……」

 

 私は何故かキュンと胸が締め付けられ悲しくなってしまう。

 

「あぁ泣かないでお姫様。パパがついてるぞ、何が怖いんだ?直ぐにぶっ壊してやるから教えてくれ」

「馬鹿なこと言わないでコンスタン。エメラルドが過激な娘になったらどうしてくれるの?」

 

 顔を近づけて来たパパ・・の額をママ・・が裏拳で排除した。

 

「痛いねルイーズ」

「痛くしたもの。それより早く入りましょう。エメラルドが怖がってるわ」

 

 一瞬にしてパパとママの力関係が理解できた。なるほど。

 

 私は・・抱っこされたまま運ばれ大きなガラスで出来た扉から建物へ入って行く。扉は自動で開き多くの人が出入りしている。中は広々とし天井も信じられないくらい高い。これは高い塔の中なのかな?

 そのままゲートのような物をくぐり抜け今度は小さな部屋に入るとドアが自動で閉じ凄い速さで上って行く。

 

「おぉ~」

 

 思わず低い声が出るとママが可愛いぃぃ〜と言いながら頬にチュッとしてくる。交代でパパもしようとするので掌打で排除した。

 

「エメラルドが君の技を覚えたぞ」

 

 鼻を押えて嬉しそうにしてるパパはちょっとヤバい奴かも知れない。

 

 小さい箱が止まりママが私を抱っこしたまま下りると目の前にあるカウンターを右に進む。

 

「おはようございますルイーズさん。今日から復帰ですか?」

「おはよう、メアリ。そうよ、よろしくね。この娘がエメラルドよ」

「うわっ滅茶苦茶カワイイ♡」

「あり得ないくらい天使」

「持って帰りたい!」

 

 歩き続けるママにすれ違う人が群がり私の頬を突き倒す。

 

「うにゃいっ!」

 

 いい加減鬱陶しくて手で払うと皆が止まった。

 

「やだルイーズさんにそっくり!」

「カワイイ、カワイイ」

「欲しい!」

 

 なんだコレ切りが無いな。

 

「ハイハイもうここまでよ。エメラルドが可愛いのは事実だから仕方が無いけれどこれから毎日来るんだし今日はこの辺にしておいて」

「「「は〜い」」」


 どうやらママの部屋の前についたのか皆が散っていく。

 ママが扉の横に手をかざすと自動で扉が開いた。これって魔力制御された扉かな。

 部屋に入るとママは存在を忘れかけていたパパに私を預けると直ぐに大きなモニターの前に向かった。それはメルチェーデ号の操舵室の装置をもっと大きく複雑にしたような感じで見たこともない物だった。

 私は驚いて目が離せずパパに抱っこされた事も忘れて見入っていた。


「エメラルド、あんまりモニターを見つめるなよ。だが好奇心は大切だから少しだけな」


 パパがそう言ってママの斜め後ろの位置へ連れて行ってくれた。


「こうなったのは何時から?」


 ママがさっきと違い少し怖い声を出す。


「一ヶ月だ。予想より急速に近付いている」

「心血注いだ『星読み』も計算ミスするのね。私もまだまだだわ」


 モニターには真ん中に蒼い丸い玉とそれに紐つけるように線が伸びその先に幾つも小さい点が集合した塊が描かれている。これが船のモニターと同じなら真ん中の丸が今私達がいる場所で、そこへ何かが迫ってるって事じゃないだろうか?


 魔物の襲撃!?スタンピードってやつか!?


 陸では時折起こる魔物による災害。集団襲撃スタンピードで町が消える事もあると聞いたことがある。さっきチラッと見た限りだけどこれだけ大きな街なら踏みこたえる事が出来るんじゃないだろうか?高い塔もあるから上からの攻撃でかなりの数が減らせるだろう。

 だけどこの建物は丈夫なんだろうか?入って直ぐのロビーはほぼガラス張りに見えたけど強力な魔物避けの防御システムが働いているのかも知れない。


「あ、あう」


 私はもっと詳しく知りたくてママに手を伸ばした。


「あらエメラルド、やっぱりパパは嫌なのね」


 ママは「仕方ないわね」と口にしているが嬉しそうに私を抱えようとした。


「ちがうぞ、エメラルドは『星読み』に興味を持っただけだ。パパを嫌がったわけじゃない」


 パパはそう言ってママに背を向け私が強奪される事を回避した。


 いや正解だけど、モニターが見えなくなっちゃったじゃん。早く戻してよ!


「大好きなママが作った『星読み』を好きになるなんて可愛すぎる天才じゃない。早くエメラルドを渡して」


 最後に低い声で要求するママの声にパパがビクついた。


「『星読み』は私だって開発から加わってる。ルイーズだけが作ったんじゃないから。エメラルドはそこをわかってる天才なんだ。な、エメラルドぉ〜」


 そう言ってヒゲでザラついた顔をジョリジョリと押し付けてきた。


「うぅ、ヤー!」


 手で押しのけようとするけれど小さくてポヨポヨの私の手では抵抗できない。


「止めなさいよ、嫌がってる」

「照れてるだけだ。君は産まれてからずっとエメラルドと一緒なんだから俺にもスリスリする権利がある!」

「それは産後だから当たり前でしょ!それとも産まれたばかりのエメラルドを放り出してここへ来いと言うの?鬼、鬼畜ね」

「そんな事言ってない!エメラルドと一緒に居れるなら俺だって産みたかった」

「なに馬鹿なこと言ってるの!」


 あぁもう夫婦喧嘩は勝手にやって欲しい。私はあのスタンピードの事をもっと詳しく聞きたいのに。



 

 

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