第52話 魔導砲2
ダキラ船長の叫びと同時にどす黒い海面が大きく盛り上がってきた。
「うわぁー!」
「逃げろー!」
「まだ生きてたのか!?」
みんなが口々に叫び海上に浮かぶ小型ボートが本船に戻ろうと焦っている。
「ボートの収納は不可能だ!一旦散れっ!」
ダキラの叫ぶ声で小型ボートは本船から蜘蛛の子を散らすように四方へ走って行った。
盛り上がってきた海面から濃い灰色のぬめっとした何かが現れ、ヒュッっと風を切る音がし直後船体が破壊音と共に傾いた。
ガシャーーン!!
「「キャーッ!」」
「うわぁー!」
ほうぼうから悲鳴が上がりギギギッと船が軋む。
「コイツは二体目だ!全速で退避ー!」
上にいたダキラ船長が指示を出しながら船内に駆け込んで行ったようだ。どうやら一体目の魔物の死体の陰に二体目の魔物が潜んでいたようだ。ピッタリと重なっていた為、レーダーでも判別がつかなかったようだ。きっとそんなに性能が良くなかったんだろう。
船が傾く程の衝撃だったが私はタイミング良く柵に掴まったままだったので持ちこたえていた。でもサイラは私の少し後ろにいた為転んで反対側の柵の所まで飛ばされてしまった。
「サイラ!」
幸い外には投げ出されず、体を強く打ち付けられてしまったが何とか立ち上がった。ニコラスも柵に掴まり無事だったが素早くサイラの元に駆けつけ手を貸してくれた。
「とにかく中に戻ろう。ここは危ないから」
ニコラスはサイラを抱えるように庇いながら船内へのドアへ向かう。船はエンジンを唸らせ二体目の魔物と距離を取るために動きだした。柵を頼りに私もドアの方へ向かおうとしていたが、再び風を切る音がしたかと思うと船体が揺れた。
「うわっ!?」
また必死に柵に掴まり投げ出されないように踏ん張る。
「エメラルド様!」
「大丈夫か!?」
サイラとニコラスは既にドアの内側に入っていた為、大丈夫そうだった。私もそこへ向かおうと柵から離れたその時、ゆらっと何かの気配を背後に感じた。
「え!?」
メキメキっと船全体から破壊音がし、グシャリと船体がひしゃげる。見れば濃い灰色のとてつもなく巨大な触手が船に巻き付いていた。
呆気にとられていると海面がザバッと割れ、巨大な触手の本体であろう濃い灰色の塊がぬらっと姿を現した。
「キング……クラーケンか……」
ニコラス達がいる方からカイの声が聞こえた。流石にこの騒ぎで目が覚め私を探して駆けつけたのだろう。目の前にそびえ立つソレは、先ほど魔導砲で仕留められたクラーケンとは比べ物にならない程の大きさ。上位種、キングクラーケンだという。
「これも、見たことあるとか?」
恐ろしさのあまり目の前のキングクラーケンから目を離せないままカイに問いかける。アスピドケロンには一度遭遇し辛くも逃げ延びたというカイは二度目のアスピドケロン遭遇も見事回避した。もしかするとキングクラーケンにも遭遇し逃げ切った経験があるとか?
「いやこれは無い。だけどこの見てくれと大きさだ。誰だってわかるだろう」
そう話すカイをチラリと見ると、こっちへ来いと手を動かしている。
「ゆっくりと、静かにな」
恐ろし過ぎて奴から目を離すことが出来ないが、カイの指示通り一歩一歩キングクラーケンを刺激しない様に後ろ向きでドアの方へ進む。その間もキングクラーケンの触手はギリギリと船体を締め付けているのか、そこかしこから何かが壊れる音がするが、何故かキングクラーケンは船を捕えたままそれ以上の行動へ移さない。このまま一気に海中へ引き込まれれば一溜まりもないだろうが今はその気配が無い。
この隙にカイ達の元へ行こうとしている私としては有り難いけれど不気味だ。
そしてあと一歩というところでキングクラーケンの触手が一本、ゆらりと現れ近づいて来た。
「うぇっ!?」
「動くなエメラルド」
カイの言葉に息を詰めピタリと足を止める。
触手は私の前までやって来ると、何かを探るように先端を使いわたしの頭の方から足元まで行ったり来たりさせている。
ひょえ~ゾワゾワするんだけど……
息を止めたまま触手の動きを見つめていると、それは私の腰付近でピタリと動きを止めた。何をするのかと見ていると、何故か特級ケースに狙いを定めたようにゆっくりと近づいて行く。
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!特級ケースには魔物避け機能があるんじゃないの!?
そう思いながら見ていると触手はツーっと近づいて触れる寸前でビクッと引っ込んだ。
「うわっ」
それを見て私の体もビクッとする。声が出てしまったと同時に足が一本後ろへ下がる。
ヤバい!動いちゃった。
触手を刺激してしまったんじゃないかと焦ったが、まるで私が動いた事を気にしていないようにまた特級ケースに近付いては触れる寸前でビクッと引っ込む。もしかしてこのタイミングで私が動いても気づかれないのかなと思い、触手が引っ込むと同時に一歩一歩下がってドアの方へ近づいて行った。
ドアへは数歩の距離だったので直ぐに到着した。今はもう私の両腕をカイが掴んでいつでも触手から引き離す事が出来る状態だ。
「コイツまさか特級ケースを狙ってるのか?」
カイが私の耳元で囁く。触手に人語を理解する機能があるのかは知らないが、それはこそばゆくてザワッとする。
「少なくとも私より興味を持ってるみたいね」
直ぐ側までキングクラーケンの触手が迫っている事態に私の後ろにいるであろう、ニコラスとサイラが微動だにせず気配を殺しているだろう。
「ミラ、俺のケースをよこせ」
えっ!ミラもいるの?
どうやらカイと一緒に私を探しに来てくれたらしく、しかもカイの特級ケースを持たされていたらしい。特級ケースは徹底した自己責任で保持していなきゃいけないものだと教えられていたので、ちょっと違和感を感じてしまったがカイは前にも私にケースを預けていた事があったのでそんなものなのかなと今は考えないようにした。そんなこと言ってる場合じゃない。
カイの言葉に後ろの四人がヒソヒソと何かをやりとりしている。きっとケースをどうするんだ、とか
「カイ……カイ!」
「ちょっと待て、コイツ等がケースを……」
「いやいや待てないよ、コレ見て!」
小声の叫び声で私は必死に訴えた。カイ達が特級ケースを渡す渡さないの話しをしている間に、近付いては引っ込んでいた触手がいつの間にか私の特級ケースに結びつけている紐に気づき、それに巻き付いてきていた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
焦るが抵抗も出来ずアワアワしていると気づいたカイがニコラスからナイフを受け取り紐を切った。と同時に触手が紐をシュパッっと引き抜いていった。
「エメラルドっ!」
「うわっ」
カイは直ぐに私の腕を後ろに引っ張りドアを閉めた。足元には紐を引き抜かれた特級ケースが落ちていた。
「はぁ……助かった?」
と、力が抜けた瞬間、船が再びギシギシと音を立て軋んでいく。
「不味いな、とにかく操舵室のダキラ船長の所へ行くぞ」
ニコラスがそう言いながらサイラを抱えて通路を進み出した。
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