第49話 責任者出て来い

 部屋中のみんながアワアワとしている。

 

「よ、よせ。それが無いとお前だって困るだろう?財産を失うし、こ、この部屋だって追い出されるぞ」

 

 クソフランコがカイの手元を見ながら落ち着かせようとしている。

 

「悪いな、俺の家はそれなりの商家だ。それに雑魚寝も慣れてる」

 

 カイが特級ケースを無くしたってなんてこと無いという風に答えると、カチンときたのかクソフランコが暴言を吐く。

 

「だったら俺にくれても良いだろう!!金持ちのクセに特級遺物を発掘してんじゃねぇよ!」

 

 クソフランコにしてみれば苦労の末に発掘した遺物だったのかも知れない。そんな奴からみればカイの態度も発言もムカつくだろうけど、クソフランコの苦労はカイには全く責任が無いし、カイの家が金持ちなのも彼のせいではない。それに今のフランコを見ていてもこれまで品行方正に生きて来たようにも思えないので同情も出来ない。

 暴言を吐かれたってカイは顔色一つ変えず鼻でもほじりそうなしらっとした顔で、特級ケースを握っている手の小指をピンと立てケースをブラブラと揺らすとクソフランコが黙った。それを見た馬鹿貴族が顔を引き攣らせる。

 

「お、お前には国へ貢献するという尊い志は無いのか!?」

 

 おぉおぉ、馬鹿貴族がとんでもない事言っちゃってるよ。

 なんの説得力も無い言葉にカイが薬指をピンと立てると馬鹿貴族も黙った。特級ケースを落とすカウントダウンのようだ。


「あなた達が余計な事言って来なきゃカイはちゃんと国へ貢献してたと思うけど」

 

 騒いでるみんなをちょっと引いた目で見てしまっていた私は思わず言ってしまう。

 

「エメラルド、お前って偉いな」

 

 カイもいい加減ウンザリしているのか私に眩しそうな目を向けながら中指もピンとする。後は人差し指と親指だけ。もう一本ピンとすればカイの特級ケースは海へ消えて行くだろう。

 それを見た観客達がコソコソと賭けだした。本当に海の男達は娯楽に飢えると同じ行動をするね。


「ケースが無くなる方へいち万フィール」

「俺は脅しだと思うから引っ込める方へ一万フィール」


 フィールとはフィランダー国の通貨単位のようで、どうやら焦点はケースが残るか残らないかに当たっているようだ。皆がどちらかに賭け始め、一人の男が胴元となりいそいそと働いている。


 ん?どっかで見たような男だな。


 私がそいつをじっと見ていると何処かから声がかかった。


「俺は大穴で、ケースが落とされてお貴族様が罰せられてフランコも共謀でとっ捕まるに賭ける」 


 その声を聞いた馬鹿貴族は本気でヤバくなって来た事に気づいたようで。


「待て待て待ってくれ!この状況でそれを失えば……」


 勝手な窃盗疑いをかけるも中身は確認できていないまま、特級ケースは大勢の人の目の前で失われ、特級遺物も失われ、別料金も払えず、監督不行届で上司から詰められ、責任を問われ……


「一体なんの騒ぎだ?」


 私が馬鹿貴族の状況の悪さを指折り数えていると、人垣がサッと割れ体格の良い厳ついオッサンが部屋に入って来た。誰も何も言わずシンと静まる部屋の中の様子を見回しフンッと鼻を鳴らす。

 

「ヴィアーニ様とカラッチ様」

 

 名前を呼ばれただけで馬鹿貴族二人がビクッとなる。

 

「あんまり無体をされては俺も黙ってるわけにいかないんですけどね?」

 

 日に焼けた褐色の肌に顎髭だけを生やし、いかにも荒くれ者たちを纏めてるぜ的な雰囲気。多分この船の船長だろう。

 

「カイ、お前が原因か?」


 特級ケースを船外に突き出し今にも手を離しそうな姿に鋭い視線を向ける。


「原因と言われればそうかもしれないけど、俺は自分の物を守ろうとしているだけだ」


 おそらく船長であろう男が馬鹿貴族とクソフランコを見て、カイを見たあと私をじっと見つめてくる。


「金髪に翠眼か」

「それが何か?」


 いやらしさは感じないが値踏みでもするような目つきだ。嫌な感じがして睨んでいたらふいっと目をそらされた。そして部屋の中にいた観客に事情を説明するように求める。


「最初から見てたやつ!」

「はいは〜い。俺見てたよぉ」


 直ぐに観客の後ろからキラキラ☆ニコラスが出て来た。今日は朝から見かけないと思っていたけど何処かから覗き見してたんだな。

 相変わらずの嘘くさい笑みを浮かべ船長に近づいて行く。


「いつから見てた?」

「救命艇を保護した時からで〜す」

「なら昨日か?」

「違うよ、一艘目の救命艇と接触した時から。お貴族様が乗り込んで来た時からだから四日前かな」


 その話に馬鹿貴族二人がピクッと反応する。


「お前など見覚え無いぞ」


 馬鹿貴族の一人が眉を寄せて言う。


「そりゃ俺がずっと付いてるわけ無いじゃん、忙しいし。だけどお貴族様の身の安全を確保する為・・・・・・・・・・この船に乗り込んで来たお貴族様には常に監視……じゃなくて、護衛がつくんだよぉ、でございますぅ」


 監視って言っちゃってるよ。きっとお貴族様が余計な騒ぎを起こさないように常時監視が張り付くんだろう。良い対策だ。


「報告」


 船長がボソッとニコラスに指示を出しながら横目で私を見てくる。これまでだって何度か品定め的な事はされて来たけど、なんだかコイツは少し違うな。


「では報告しまっす。

 先ず一日目。お貴族様はこの船に乗り込んでそうそうVIP扱いを要求されたので特別室へご案内しました。その際に一日別途二十万フィールかかることを説明しましたところ、一緒に乗り込んで来た特級持ちの部屋の場所を確認されました。

 二日目。食事が不味いと言われ追加料金増しで構わないからもっと良い物を出せと要求されたのでその通りに。ちなみに現時点で食事の追加料金はお二人で五万☓八食で四十万フィールです。その際にカラッチ様が支払いは大丈夫なのかとヴィアーニ様にお尋ねになった所ヴィアーニ様が特級持ちがいるから払わせれば良いと仰いました。

 三日目。贅沢三昧を続けつつカイの部屋を訪れたところすったもんだの末追い返さ……話が不調に終わり、その後、救助されたフランコと面談されて御三方でカイの特級ケースはフランコの物だと言い切ろうという話が出来上がった、とのことです。

 四日目の今日は…(省略)…という話の流れでした。以上で〜す」


 ニコラスが胡散臭い笑顔のまま報告を終えると船長は馬鹿とクソに鋭い視線を向けた。


「ち、違う。我らは此奴が遺物を盗られたというから確かめに来ただけだ」


 言い訳がましい馬鹿は船長にひと睨みされて口をつぐんだ。


「先ずはフランコ。お前は報酬無しで一ヶ月罰則労働、この船で働いてもらう。それから……」

「ま、待ってくれ!もう無茶は言わねぇ。あの特級ケースの中身も諦める。だから」

「諦めるじゃなくて最初からカイの遺物だから。あなた全く懲りて無いようね」


 私が指摘したが船長はそれを聞こえていないかのように話を続ける。


「貴族様は別料金は国へ一緒に請求しますのでそちらでお支払いを。それから今後この船の中ではカイとエメラルドに接触しないで頂きたい。守れなければそれなりに対処させて頂きます」


 そう言って、全員に部屋から出るように手を振って騒動の終わりを告げた。民間船とはいえ船では船長が一番の権威だ。流石の馬鹿貴族もスゴスゴと帰っていった。クソフランコは私達を睨む事を忘れず両サイド船員に掴まれ連れて行かれたから反省なんてしてないと思われる。

 

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