第48話 お前もかフランコ2

 何度目だ馬鹿貴族。


 迂闊にドアを開けるわけにはいかないけれどかなりな騒ぎで、通路には大勢の人がいる気配する。船員と思われる男達のざわめきも聞こえていて本当に捕物をしに来ているようだ。

 

「エメラルド、部屋に行って、特級ケースを抱えてろ」

 

 私に言いながらカイは特級ケースを個室に取りに行き直ぐに戻って来た。同じように私も個室に行って特級ケースを持ちリビングに戻るとカイに睨まれた。

 

「チッ、時間がないのにここに来て我儘か?おこちゃまだな」

「いい加減仲間外れは飽き飽きなの。おこちゃまでも何でもいいからドア開けた方が良いんじゃない?」

 

 下手な煽りとか引っかからないもんね。私だって成人してるんだから、ドア越しにイライラするのはもうたくさんだ。

 

 渋面のカイと頷き合って合図すると彼はドアを開けた。

 直ぐにバタバタと数人の男達が強引に入り込む。

 

「おいおい、礼儀がなってないんじゃないか?」

 

 軽口を吐きつつカイは私を窓がある壁際に下がらせ庇うように前に立つ。サイラとミラも私を挟むように両側に立ち全方位防御状態である。

 なんぼほどか弱い女子だと思われてんだ!?

 

 男達が私達を囲うように立ち並び睨みを効かせて……無いな。みんなニヤニヤしながら面白い出し物を特等席で見れる喜びに溢れている。

 あぁ、コイツ等も娯楽に飢えている回収船の奴等と同じだな。アイツ等も喧嘩が始まると楽しそうだった。

 懐かしさを感じつつ、ぐるっと見回すと一人だけ睨みを効かせて真面目に仕事してる男がいた。フランコだ。明らかにその中で浮いているが本人は真剣そのもの。

 

「場所をあけろ」

 

 男達の後から悠々といった感じで昨日の馬鹿貴族達がやって来ると私達の前に立つ。

 

「出せ」

「何をですか?」

 

 カイはウンザリを抑えながら冷静に対応している。偉いぞカイ!

 

「フンッ、素直に応じれば穏便に済ませてやろうと思っていたがそういう態度なら致し方あるまい。やれ」


 馬鹿貴族の一人が顎で指示を出したが誰も動こうとしない。周りにいる男達はこの出し物に出演する気は無いらしくお互いに目配せしながら様子見をして動かない。


「何をしているんだ!お前、フランコ!早くしろ」


 おぉう、フランコと懇意ですか、そうですか、そうですよね、だんだんわかってきましたよ。


「うぐっ、俺が……いや、そうだな。俺こそがその役目に相応しいだろう」


 自分を奮い立たせ、フランコが一歩前に出るとカイの持つ特級ケースに手を伸ばした。パシッと当然阻むカイ。


「なぜ勝手に俺の物に触れようとする?」


 ちょっと低い声でフランコを威嚇する。フランコはあっさりと奪えなかった事に何故か驚き怯む。まぁ体格から見てもフランコの方がガッシリしてるし、カイは普通体型だからそう思い込むのは仕方ないかもしれないけれど彼って結構身のこなしが出来ていると思う。気弱でどん臭そうな振る舞いをしている時もあるけれど、いざという時の行動力を見た今では与えてくる印象と違和感がある。


「それは俺の特級遺物だ!お前がアスピドケロンのドサクサに紛れて盗んだんだ!」


 言うに事欠いてソレですか?知らない訳では無いでしょうに。特級ケースは魔力を登録した本人しか開けられないし、勿論この特級ケースは間違いなくカイのもの。あの日朝からずっと持ち歩いていた特級ケースをこの船に来てからも確認した完全無欠のカイの物だ。


「お前の特級ケースはあの高速艇と一緒に海に沈んだろ」


 淡々と言い返すカイってば大人……あぁ~呆れ過ぎて目が死んでるわ。


「特級ケースは見た目じゃ誰の物だかわからねぇ!」

「だから、魔力登録してるだろ?」


 幼子の言い聞かせるような気持ちになっているのかカイの声が少し優しい。


「た、確かにケースはそうだが中身はわからねぇ。中身が入れ替わっていても誰の物かわからねぇだろ!」


 そう来たか。

 確かにケースの中にある遺物そのものには魔力を登録出来ない為一見しても誰が発掘した物かはわからない。でもわからないからこそ特級ケースという本人しか開くことが出来ない特殊な物で管理し肌見放さず売買契約が終わるその時まで責任を持って管理するというのが発掘者の役目だ。


「規定では特級ケースに入っている遺物はその特級ケースに魔力登録している者の物だと定められている」


 カイが話した通り遺物に関する規定がある。だから万が一カイがフランコの遺物をどうにか奪って自分の特級ケースに入れて売買契約まで持ち込めばそれは盗品だと証明出来ない。基本的には。


「だったら一度特級ケースを開けろ。そこに入っている遺物は俺のだと証明出来る。俺は俺の発掘した遺物の形を知っているからな」


 …………あぁ、なるほど。ここで馬鹿貴族が登場か。

 カイも私がたどり着いた考えに達しているようで眉を寄せ考えこんでいるようだ。

 それを見たフランコはニヤッと笑い、馬鹿貴族も自分の出番だと思ったのか話を切り出す。


「いくら問答してもこれでは埒が明かないだろう。とにかく一度お前達の特級ケースを開けろ。そうすればその遺物が誰の物かわかる。なにせ我々はお前達の遺物を最初に確認する際に立ち会ったのだからな」


 確かに馬鹿貴族はフランコの遺物も、私とカイの遺物もそれぞれ確認している。基本的に特級遺物は他人の目には極力触れさせないので形を知る者は少なく、この魔物討伐部隊の誰も知らない。つまり馬鹿貴族がそれをカイの物だと言えばそれが成立してしまう可能性が出てきたのだ。

 カイの遺物はよくあるタイプの第三区分外殻変容型で立方体。きっとフランコの方もそうで、報告書の内容を見ても詳細は記されていないのだろう。馬鹿貴族はその事を知っているから後は見た目でそれはフランコの物だったと言えばいいだけなのだろう。


 出たよ、貴族の厄災。


 こうなるとやはり特級ケースを開けないわけにはいかなくなってきた。拒否すればこのままずっとここに居座り続けるかもしれないし、そのうち問答無用で特級ケースが奪われるかも知れない。きっとフランコと馬鹿貴族はグルで、お互いにカイの遺物で金を手に入れようとしているのだろう。


「さあケースを開けろ」


 開けた瞬間に馬鹿貴族がフランコの物だと言い張り取り上げられるだろう。このまま陸まで粘って公の場で詳細に確認を取ることも出来るかも知れないが、腐っても貴族の馬鹿貴族の言う事が優先される可能性がかなり大きい。


「なぁカイ。お前が遺物を紛失した事は気の毒だと思うよ。だからどうだ?それを素直に渡してくれればそれなりにお前にも売った金を融通してやるぞ」


 クソだなフランコ。全部奪われるより少しでも取り戻せる方がマシじゃないかとカイを脅しているつもりなのだろう。このままいけばカイの遺物は馬鹿貴族の別料金を払い、クソフランコの個室代を払い残りも殆ど奪われ申し訳程度の金が戻れば良い方だろう。陸についたとしても王都までの道は遠い。その間にも使われまくるに違いない。


「お前にくれてやるくらいならここから海に投げた方がマシだ」


 カイはサッと身を翻すと私達が背を預けていた壁にあった窓を開け特級ケースを持った手を船外つき出した。


「「「オイオイ止めろ!」」」


 馬鹿貴族とクソフランコが慌てて叫ぶ。



 

 

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