第47話 お前もかフランコ1

 ウンザリだ。

 

「よお、お前等も無事だったんだな。良かったよ、心配してたんだぜ。なぁマグダ」

「本当にそうね、心配でずっと眠れなかったもの」

 

 ニコニコして割と顔色が良く見えるけれどこれって指摘しちゃイケないことかな。

 

 相変わらずべっとりと引っ付き合っている二人のいつもの姿にやっぱりウンザリ。

 

「そうだな、お互い無事で良かった。じゃな」

「お二人もお元気そうでなにより」

 

 私とカイはスパッとそう言い切ってドアを閉めた。

 でもやっぱりドアをドンドンと叩き、奴等は引き下がらない。

 

「おいおい冷たいじゃねぇか」

「そうよ少しくらい部屋に入れてよ。同じ船に乗っていた仲間でしょう?」

 

 同じ船には乗っていたが決して仲間になった訳では無い。あなた達が勝手に寄ってきていただけだ。

 

「なんの用だ?」

 

 ドアを開けずにカイが応対する。

 

「ドア越しじゃ話しにくいじゃねぇか」

「そうよ、顔を見ながら話し合う方が信頼が深まるのよ」

 

 常識を振りかざし、厚かましく遠慮が無い非常識な奴等がしつこくて引き下がらない。ここで騒がれ過ぎてもウザさが増すばかりなので、仕方なく部屋に招くと我が物顔で部屋中を見て回り個室にまで侵入しようとしやがる。勿論阻止した。

 

「やっぱりシャワーとトイレは欲しいわよね」

「だな、でも俺達には部屋数は別にいらねぇな」

「やだホントね」

「オイ、お前、酒」


 相変わらず人目を憚らずいちゃつく二人は、ドカッと椅子に座り当たり前のようにサイラに酒を持ってこさせようとする。サイラは誰にもわからないくらい一瞬顔を顰めながらも言う通りにしようとするのを手で制した。


「今のサイラ達は私達が個人的に雇ってるの。だから勝手に命令とかしないで」


 フランコは訳がわからないような顔をした後ムッとする。


「そいつ等は元々国の雇われだろう?そんな勝手が許されるか?」

「サイラ達はあの高速艇で働くという条件で雇われたんだ。その高速艇が無くなれば条件は満たされない。後は自由に働く場所を選べる」


 カイが言った通り、実際、船が沈んだ後で救助してくれた船で働き続ける人達もいるらしい。


「はぁ?そんな事があるのか、聞いたことねぇぞ。だけど客に接待するのがメイドの仕事だろ?」

「あなた達を招待した覚えはないわ。勝手に押し掛けといてお客なわけないじゃない」


 随分な言いようにムッとして言い返すと、フランコがギロっと私を睨んだ。


「おい小娘、調子にの……」

「フランコっ!駄目よ、落ち着いて。ほら、ね?」


 フランコが私に怒鳴りつけようとしたのをマグダが慌てて遮った。私の方もチラチラ見つつフランコを宥める。


「ごめんなさいね、エメラルドちゃん。フランコったら疲れてイライラしちゃって。ほら、アンタも」


 私にムカついた事を我慢させられているのが更に気に食わないようで、頬をピクピクさせながらフランコが謝ってくる。


「チッ、悪かったよ。ちょっとイラついてんだ。救命艇ではゆっくり眠れやしねぇからな」


 確かに救命艇には長椅子しかなく、ゆっくりベッドで休む事は出来なかっただろう。それでもきっとこの二人は船の操縦を一緒に乗り込んでいた高速艇の船員に丸投げして何もして無かったと思うけど。


「そうそう、そうなの。だから、早くゆっくり食事して、ゆっくりベッドで休みたいなぁと思って……」


 にっこり微笑む笑み含みがあるようなマグダの話しぶりにピンときた。カイの顔を見ると同じ考えのようだった。


「そうか、だったら早く帰りな」


 カイはドアを開けてさっさと出ろという態度を示した。それを見たマグダがちょっと焦っている。


「えっと、だから、個室が……フランコ、早く」


 私とカイを交互に見ながらフランコをせっついている。フランコは不承不承ながら大きくため息をつき、カイに向かってぼそっと話す。


「個室に入れてくれよ」

「言ってる意味がわからん。早く自分達の場所に帰れよ」


 表情を変えずカイがしらばっくれる。フランコ達は個室に泊まることが出来ないようだ。本来なら特級持ちは個室代くらい払えるはずで、フランコは特級持ちのはず。なのにカイに頼むって事は、紛失したんだ。特級遺物を。


 フランコは顔色を変え、下手な愛想を浮かべながらカイに頼み込む。


「なぁ、わかるだろ?置いてきちまったんだよ」

「それはお前の責任だろ?俺は関係ない」


 冷たい言い方に怯んだマグダが今度は私を見た。


「ねぇ、良いでしょう?一番狭い部屋でも良いの。一人部屋だって構わないわ」

「私、小娘なんで。よくわからない」


 別に吹きっさらしの甲板に放り出されているわけじゃ無いんだからそこに行けばいい。特級ケースは肌身はなさず自己管理が鉄則なのに部屋に置きっぱなしにして逃げ出すことに必死で高速艇と一緒に沈んじゃったのはフランコの自業自得。注意しなかったマグダも同罪だ。倉庫で雑魚寝は嫌だろうけど婚約者のフランコもいるし大丈夫でしょ。そもそも平民で回収船でも似たような生活をしてきたんだろうし。

 

「ねぇ、フランコ、なんとか言ってよ。私はもうあんな所で雑魚寝なんて嫌よ」

「うるせぇよ、黙ってろ。とにかく頼むよ、特級ケースが見つかったら金は返すからよ」


 海の藻屑と消えた特級ケースがそう簡単に見つかるはずがない。魔力登録しているから拾った人が勝手に自分の物にすることは難しいだろうけど、手元に戻る事は先ず無いだろう。そんな事は勿論フランコだってわかっているはずだから、最初から払うつもりは無いということだ。

 タカるだけじゃなく嘘までつくコイツ等に同情の余地なんてあるか?


「悪いが俺達も疲れてるんだ。早く出て行ってくれ」


 有無を言わさぬ物言いにフランコも諦めたのか、凶暴な目つきで私達を睨みながらマグダを連れて出て行った。マグダは何度も粘って頼み込んできたがカイは冷酷にドアを閉じた。


「「はぁ~〜〜」」


 お互いに心底ウンザリした。


 カイはドアの鍵をしっかり確認した後、唸りながら髪の毛をかきむしる。


「うがぁーーーー!どいつもこいつも金金金にタカりやがって!!」


 馬鹿貴族から受けたストレスも相まってカイは何かがハジけたようだ。その勢いのままシャワーを浴びながら叫び倒し直ぐに自室に引き籠もった。


 お疲れっすー。





 昨日は朝から馬鹿貴族、夕方馬鹿フランコの襲撃があったせいで散々だったが、きっと今日こそゆっくりと過ごせるようにと願った事が虚しい。


 ドンドンとドアを叩く音。

 もう良いよこのパターン。もうお腹いっぱいです。ご遠慮します。


 いくらそう願ってもドアが叩かれ続ける現実は消えない。


「ここを開けろ。私はオスカル・ヴィアーニだ」


 誰やねん!知らんわ。


「エメラルド様、昨日の貴族様ですよ」


 私が、は?という顔をしていたのか朝食を運んで来てくれていたサイラとミラが教えてくれた。声からして何となくアイツかなって思ってたけど、思い出したくなくて名前を記憶していなかった。私って記憶力いいはずなのに不思議だ。


 カイも起きていたけど、すぐにドアを開ける気にはならないようで。


「なんの御用でしょうか?こちらは今起きたばかりでお迎えする準備が整っておりませんので先ずはご要件を頂戴いできますでしょうか?」


 慇懃な言葉遣いがらドアを開けない無礼をしつつ答えを待つ。


「すぐにここを開けろ。でなければ強硬な手段に出る。お前達には窃盗の疑いがかかっておる!」


 窃盗、ってなんだ?


 カイと顔を見合わせるとお互いに首を傾げる。





 

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